広島で被爆した米兵を題材にしたアニメ映画「ヒロシマ・夏の名残のバラ」の制作が進められている。日系米国人2世の映画監督が原案を作り、被爆米兵を調査してきた被爆者の森重昭さんが協力。キャラクターデザインは「沈黙の艦隊」などで知られる漫画家のかわぐちかいじさん(78)が手がけた。監督と森さんは亡くなり、かわぐちさんらは「戦争の悲惨さを伝えたかった2人の遺志を継ぎたい」と誓う。
原案と調査の経緯
映画は、広島で捕虜となった米兵と看護にあたった女学生が戦争や原爆投下で苦しめられながらも、絆を深めていくストーリー。日系米国人2世の映画監督、ジミー・T・ムラカミさんが原案を作った。
ムラカミさんは来日した際、被爆死した米兵の存在を知った。自身も戦時中、日系人としてカリフォルニアの強制収容所に収容された経験があり、「戦争で犠牲になった人々への鎮魂と人間の愛を描きたい」と決めた。
制作にあたり、協力したのは森さんだ。歴史研究家として、長年、被爆死した米兵捕虜のことを調べていた。後に、広島を訪問したオバマ米大統領(当時)と対面した人として知られるようになった。ムラカミさんらから相談を受け、「原爆の恐ろしさが一層伝わる」と調査結果を説明した。
遺志を継ぐ人々
ムラカミさんは原案を完成させたが、14年に80歳で亡くなった。ムラカミさんから企画を聞いていた映画プロデューサー、宇田川東樹さん(78)らが引き継ぎ、かわぐちさんに協力を打診した。
かわぐちさんは広島県尾道市出身。明治大在学中の1968年に漫画家デビューした。原子力潜水艦が独立国家を名乗る「沈黙の艦隊」や自衛隊が中国やロシア軍と衝突する「空母いぶき」などを執筆してきた。
かわぐちさんが戦争や安全保障を漫画のテーマにしているのは、幼い頃に父から戦争について聞かされたことがきっかけだ。父は海軍に所属し、機雷を取り除く掃海艇の乗員だった。仲間が戦地で命を落とす中、自らは戦場に出ず、後ろめたさを感じていたという。父の思いを聞いたかわぐちさんは「戦争の本質は重く、恐ろしいものだと思った」と振り返る。
制作の現状と今後
かわぐちさんは参加を決め、米兵や女学生ら登場人物約30人を描いた。映画のデザインは初めてという。
制作はコロナ禍などの影響でストップしていたが、今年再開した。一方、森さんは3月、映画を見ることなく、88歳で亡くなった。
完成は被爆85年となる2030年の予定だ。現在、「CAMPFIRE」でクラウドファンディングが実施されている。宇田川さんらは今後、アニメ動画を作成していく。
かわぐちさんは「敵対する国の人間が理解し合うことの大切さが描かれていて、大きなメッセージになる。若い人たちにも見てほしい」と期待を寄せている。