スマホの敗者がAI企業の頼れるパートナーに
かつてスマートフォンの代名詞だったブラックベリーが、2026年3〜5月期決算を発表した。業績は低迷しているとの見方もあるが、実体はクルマやロボット向けのソフトウェア企業へと変貌を遂げ、足元では好調な業績を続けている。ジョン・ジアマッテオCEOは「コストの立て直しから、利益を伴う成長による価値創造へとページをめくる」段階だと位置づけた。
売上高は1.53億ドルと会社の見通しを上回り、調整後EBITDA(利払い・税引き・償却前利益)は前年から倍増した。稼ぐ力の源泉は、自動車やロボット向けの基本ソフト(OS)と、政府・防衛機関向けの安全な通信の2事業にある。
エヌビディアが選んだ「失敗が許されない」基盤
ブラックベリーの車載OS「QNX」は、自動運転技術で世界をリードするエヌビディア(NVIDIA)が採用していることで注目を集めている。エヌビディアは自動運転プラットフォーム「NVIDIA Drive」の基盤としてQNXを選択。クルマを「車輪のついたロボット」と捉え、安全性が最優先される自動運転領域で、ブラックベリーのOSが信頼されている。
QNXはリアルタイムOSとして、機能安全規格「ISO 26262」の最高水準「ASIL-D」に対応。自動運転レベル3以上のシステムでは、万一のシステム障害でも安全に停止できることが求められ、QNXはその要件を満たす。すでに世界の約2億3500万台の車両に搭載され、テスラやフォルクスワーゲン、BMWなど多くの自動車メーカーが採用している。
政府・防衛機関向けの安全な通信
もう一つの柱は、政府や防衛機関向けの安全な通信事業だ。ブラックベリーは「BlackBerry Secure」ブランドで、エンドツーエンドの暗号化通信を提供。米国やカナダ、英国などの政府機関が機密情報のやり取りに使用している。
「機密通信をWhatsAppで」が許されない時代、ブラックベリーのソリューションは重要性を増している。同社は2026年に入り、NATO(北大西洋条約機構)の一部加盟国との契約を拡大。また、米国防総省との契約も更新し、安定的な収益源となっている。
数年後の売上を生む「ツール」
ブラックベリーの現在の収益は、ライセンス収入とサブスクリプション型のサービス収入が中心。QNXのライセンスは車両1台あたり数ドルから数十ドルと低額だが、累計搭載台数が増えるにつれ、ストック型の収益が積み上がる。自動運転の普及が本格化すれば、ソフトウェアアップデートやクラウドサービスによる追加収入も見込める。
ジアマッテオCEOは「数年後の売上を生むツール」と表現し、現在の投資が将来の成長につながると強調。2026年度通期の売上高は6億ドル超、EBITDAは1億ドル超を見込む。
スマホの敗者から隠れた勝者へ
かつてスマートフォン市場でアップルやグーグルに敗れ、表舞台から消えたブラックベリー。しかし、その技術は自動車や防衛といった「失敗が許されない」領域で再評価されている。エヌビディアという最先端AI企業に頼られ、各国政府の機密通信を託される存在へと変貌を遂げた。
決算の数字だけを見れば、かつてのスマホ事業の規模には遠く及ばない。しかし、利益率の高いソフトウェア事業へのシフトは着実に進んでおり、時価総額も2025年末から約3割上昇している。ブラックベリーは、静かに次の役割を見つけ始めている。



