スマートフォン市場、特にハイエンドモデルでは、3.5mmオーディオジャック(イヤホンジャック)を廃止する流れが定着しつつある。国内外の主要メーカーがワイヤレス接続への移行を理由に搭載を見送る中、実質的に唯一といえるほど固執してイヤホンジャックを搭載し続けているのが、ソニーの「Xperia 1」シリーズだ。
イヤホンジャック搭載の理由とユーザーニーズの実態
なぜスマートフォンにイヤホンジャックが必要なのか。ワイヤレスが主流となる中で、搭載を続ける理由とユーザーからの要望の実態について、ソニーでオーディオ開発と商品企画を担当するキーパーソンに直撃した。取材に応じたのは、技術センター 音響システム技術部長 音響デバイス技術開発部 5課の堀田有基氏と、同社 共創戦略推進部長 イメージングコミュニケーション商品企画部 2課の北條英紀氏だ。
堀田氏は「今やスマートフォンはコンテンツ視聴において最もポピュラーなデバイスです。視聴方法として無線や本体スピーカーだけでなく、有線イヤホンという選択肢があることが極めて重要だと考えています。仮に使用率や市場規模が小さくなっていたとしても、状況に応じて使い分けたいというニーズは確実に存在します。有線で動こうと思ったときに満足いく質で視聴できる環境を提供することは、オーディオメーカーとしての矜りでもあります」と語る。
北條氏は「実際、『Xperia 1 VIII』のご愛用者アンケートでも、『購入決定時に重視した項目』として『3.5mmオーディオジャック搭載』を選択されたお客さまは約37%(37.16%)に上ります。これは今回約4倍に大型化した望遠カメラ(38.51%)に匹敵する高さで、スピーカー(25.59%)やワイヤレス音質(22.66%)を上回る強い支持をいただいています」と明かす。
ユーザーニーズと技術設計へのこだわり
ユーザーニーズとして、「スピーカー音質」と「イヤホンジャック(有線)音質」の向上はどちらが多く求められているのだろうか。堀田氏は「どちらか一方に偏っているということはありません。有線をメインに使う方もいれば、スピーカーを好む方もいらっしゃいます。あらゆる動き方で高い質を実現することが重要であり、われわれとしてもどちらかだけではなく、双方を進化させる姿勢で取り組んでいます」と答えた。
また、USB Type-C端子からも音声出力は可能だが、あえて独立したイヤホンジャックを設ける技術的な優位性はどこにあるのか。堀田氏は「小型のアンプや変換ケーブルなどのUSBデバイスは、電源を積んでいなかったりバッテリーが劣化していたりするため、音質的に不利になる要素があります。その点、Xperiaの内蔵電源と電源回路は、オーディオ回路が要求する瞬間的な電流の応答性に優れています。また、アナログ回路はスペースの制約が厳しいですが、基板裏の最短距離にオーディオチップ(DAC)を配置し、オーディオジャックまでの信号ロスを最小限に抑える基板設計を行っています。直挿しできる利便性はもちろん、音質面でも明確なメリットがあります」と説明した。
ワイヤレスとの共存と今後の展望
ウォークマンなど他のオーディオプロダクトで培われた技術はどのように反映されているのか。堀田氏は「ソニー独自の『高音質はんだ』など、長年培ってきたオーディオ技術や部品を採用しています。ただし、無酸素銅の取り出しや筐体のようにウォークマンでは可能でもスマホではコストや重量面で難しいものもあります。音質と製品としてのバランスや費用対効果を厳密に吟味しながら、最適な要素を落とし込んでいます」と語る。
有線イヤホンの市場動向や、Xperiaにおけるアクセサリーの利用傾向については、北條氏は「市場全体としてはワイヤレスが優勢ですが、若年層を中心に有線が再評価されるトレンドも見られます。また、Xperiaユーザーの皆さまは、日常の移動時はワイヤレス(WF-1000XM5など)、自宅でじっくり音楽に浸るときは有線ヘッドホンといった形で、シーンに応じて使い分けられている様子です」と述べた。
かつてのように有線イヤホンを本体に付属するという選択肢はないのだろうか。北條氏は「アンケートでも約27%(27.81%)のユーザーがソニー製の有線イヤホン・ヘッドホンを既に所有されていることが分かっています。最低限通話ができるレベルのものを同梱しても、音質にこだわったXperiaにはもったいないですし、コストも上昇してしまいます。多様なラインアップの中からお客さまの好みや用途に合ったものを選んでいただくスタイルをとっています」と説明した。
堀田氏は「設計の立場からすると、試すきっかけとして同梱されていれば嬉しい面もありますが、既にこだわりの製品をお持ちの方にとっては無駄になってしまうため、現在の形がバランスとして適切だと考えています」と付け加えた。
その他に、有線接続が強く求められるシーンはあるのだろうか。堀田氏は「音ゲーなどのゲーム用途ですね。音の遅延や途切れが勝敗に直結するため、ゲーマーの方々からは有線ジャックに対して非常に強い要望をいただいています」と明かす。
音質向上への取り組みと開発陣の矜持
今回、最新のワイヤレスイヤホンとの組み合わせにおいて「途切れにくさ」が大幅に向上したという。技術的にはどのような取り組みをされたのか。堀田氏は「Xperia側としては、前世代のXperia 1 VIIの時点で、Bluetooth(2.4GHz帯)の送信パワーを電波法の規制限界ギリギリまで引き上げて出力しています。それに加え、イヤホン側のアンテナ受信性能が向上したことで、接続安定性が飛躍的に高まりました。電波が混雑する場所でも高いデータレート(音質)を維持しやすくなるため、途切れにくさだけでなく高音質の維持にも貢献しています」と説明した。
有線・無線の双方が高次元で進化しているわけだが、堀田氏は「利用中に本体スピーカーでBGMを満たす使い方も含め、どの出力方法を選んでも最高レベルの音響体験を届けられるよう設計しています」と語る。
取材を通じて判明したのは、イヤホンジャックの搭載が単なる過去の慣習ではなく、戦略的なユーザー支持と高次の技術設計に支えられた必然の選択である点だ。電源供給や基板配置における構造的優位性を生かし、いかなる視聴スタイルでも妥協のない高音質体験を提供するソニーの矜りがそこにあった。



