年齢を重ねても記憶力を維持する方法として、激しい運動ではなく「ゆるい運動習慣」が効果的であることが、米ピッツバーグ大学の高齢者研究で明らかになった。同研究によると、55歳から80歳の被験者が週3回の軽い運動を継続したところ、記憶に深く関わる前方海馬の体積が1年間で平均2%増加したという。
運動が脳に与えるメカニズム
明治大学教授の堀田秀吾氏は、著書『疲れ切った人のための勉強法』(東洋経済新報社)の中で、この研究結果を紹介している。堀田氏によると、運動後に感じる「スッキリ感」は気分だけでなく、脳内でも良い変化が起きている証拠だという。その中心的な役割を果たすのが、記憶に重要な「海馬」と、神経細胞の成長を支えるタンパク質「BDNF(脳由来神経栄養因子)」である。
海馬は脳の内側奥にある小さな領域で、新しい出来事の記憶や道順の学習に活躍する。BDNFは神経細胞の「肥料」のような存在で、細胞の生存、成長、結合強化を助ける。運動によってBDNFが増えると、神経細胞同士の結び付きが育ちやすくなり、記憶や学習の基盤が整う。
研究が示す具体的な数値
コペンハーゲン大学のラスムッセンらの研究では、健康な成人にローイングマシンで4時間の有酸素運動を課し、腕の動脈と首の静脈から同時に採血した。その結果、安静時と比較して運動中は脳からのBDNF放出が2~3倍に増加し、血液中のBDNFの70~80%が脳由来であることが示された。
さらに、マウスにトレッドミル走をさせた実験では、海馬や大脳皮質でBDNFの遺伝子発現が3~5倍に増加し、運動終了から2時間後にピークに達した。つまり、筋肉を動かすことが海馬や大脳皮質に「もっと育て」という信号を送っていることになる。
実践的なアドバイス
堀田氏は、無理のない運動を長く続けることが重要だと指摘する。具体的には、週3回の早歩きや軽いジョギングなど、負荷が高すぎない運動を習慣化することで、記憶力の改善が期待できる。また、運動してから勉強すると記憶が残りやすいという統計的な結果も確認されている。
「学習の前に10分だけ早歩きをする」といった簡単な取り組みでも、BDNFの分泌が促進され、記憶の定着に役立つと、堀田氏は説明している。



