登山地図の美しい立体感と工夫 昭文社の「山と高原地図」
登山地図の美しい立体感と工夫 昭文社の山と高原地図

夏山シーズンが到来した。今回紹介するのは、登山に欠かせない登山地図の世界。1965年から「山と高原地図」シリーズを発行する昭文社(東京)を訪ね、地図に凝らされた工夫と使い方を聞いた。

山域全体を俯瞰できる紙ならではの一覧性

シリーズは現在63冊。槍ヶ岳・穂高岳、六甲・摩耶、阿蘇・九重など各地の山々をカバーする。悪天候での使用を想定し、用紙は丈夫で耐水性のある合成紙「ユポ」を使用。小雨でも水滴をはじき、破れにくい。

広げて眺めると、まず美しい立体感に気づく。等高線の間隔が狭いところが急な傾斜を表し、さらに低いところから「濃い緑色」「薄い緑」「薄い黄色」など6色で標高を塗り分け、険しさを想像しやすくしている。

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その上に「ボカシ」と呼ばれる陰影が加わる。画面左上(地図の方角でいう北西)から光を当てた想定で、尾根の北側は明るく、南側はやや暗く描かれている。編集担当の高西美優さん(30)は「明暗を巧みに使ったオランダの画家、レンブラントの絵画の陰影表現をイメージしています」と話す。

紙とアプリの併用を推奨

同社は地図アプリも提供しており、山では両方を使うことを勧めている。紙の地図は「どこに進むか」を判断するとき、山域全体を俯瞰できる利点がある。アプリは現在地を確認できるのがよいところだが、バッテリーが切れると使えないという弱点もある。

高西さんも登山では両方を使う。以前、北アルプス・朝日岳から新潟県糸魚川市の日本海まで27キロの「栂海新道」を歩いたとき、夜に山小屋で紙の地図を開いた。「この尾根を通ってここまで歩いてきたんだなあ」としみじみ実感が湧いたそうだ。

地図上のコメントを読んでいると、近年大雨による土砂崩れが多いためか「2025年10月現在、通行止」などの言葉が散見される。「各山域を熟知した登山ガイドや山岳写真家などが毎年、登って調査しています」と高西さん。最新調査の内容を盛り込んで毎年改訂し、春先に出版する。

調査員の情熱と安全へのこだわり

大野久さん(69)は20年以上、神奈川県を中心とする丹沢山塊を調査している。丹沢・塔ノ岳山頂にある山小屋の管理人だったとき、別の山域を担当する山岳写真家から声がかかった。

毎年秋から翌年初夏にかけ、しばらく調査していなかったエリアを中心に20日間ほど山に入る。崩落や土砂崩れで登山道が歩けないなど、山は意外と変化している。メモや写真で記録し、自分が歩いたGPSの軌跡を印刷した紙に、注意点などを書き込んで、9月末までに昭文社に提出する。

「充実した地図を作ろうと思って山を歩いていると、より山のことがわかってくる」という。「尾根広く迷いやすい」「落石注意」と、安全に関する情報は丁寧に。「展望雄大」「カラマツ林 新緑、紅葉美しい」と、登山中の楽しみになる情報も盛り込む。大野さんは「実際に登らなくても、地図を見て『新緑の頃はきれいだろうな』と想像してほしい」と話した。

編集担当の思い

もう1人の編集担当、久能岳士さん(23)は入社1年目。「地図は安全な登山に必要なもので、登山者の命にも関わります」。印刷前のゲラをチェックする時には身の引き締まる思いになるという。

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