iPhone生産のインド移転拡大、空の物流ネットワークにも変化
iPhone生産のインド移転拡大、空の物流にも変化

世界で販売されるiPhoneの生産拠点が、中国からインドへと広がっている。この変化は工場の立地だけでなく、製品や部品を運ぶ「空の物流」にも表れている。航空ネットワークから見えてくる、インドの存在感の高まりと世界のサプライチェーンの変化を、『空の地経学戦略 日本の経済安全保障と航空サプライチェーン』(伊藤恵理、鈴木均/日本経済新聞出版)から抜粋して紹介する。

航空輸送が止まれば世界の生産が止まる

半導体産業は、「航空輸送ネットワークの構造と脆弱性」を最も端的に示す事例だ。工程の要所にある精密部品や高度な製造装置、それらを支える補修部品の多くは航空輸送に依存している。わずかな遅延が生産工程全体の連鎖遅延を招き、ひとたび止まれば工場全体が沈黙する。供給が滞れば市場は即座に反応し、半導体価格は高騰。その影響は自動車、家電、通信、建設――あらゆる産業に波及する。

こうした繊細なサプライチェーンと、それを支える航空輸送ネットワークは、コロナ禍でその構造を大きく変化させた。外出自粛でしのいだ日本とは異なり、欧米諸国では感染拡大に伴い厳格なロックダウンや外出禁止令が発令され、旅客便が激減した。世界の空を飛び交ったのは貨物だった。多くの航空貨物は、貨物専用機ではなく旅客機の下部デッキの貨物室(ベリー)に積まれている。普段は見えない「空の物流」が旅客便の消失によって一挙に可視化され、貨物だけが飛び交う世界が出現したのである。

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ロシアの「空の生命線」と制裁の影響

航空輸送ネットワークの重要性は、航空機そのものの維持にも及ぶ。ウクライナ侵攻後、経済制裁によってロシアは国際決済システムから排除され、戦闘機や旅客機の整備に必要な部品・半導体を米欧から輸入できなくなった。旅客機の大半を供給するのは米ボーイングと欧エアバスである。補修部品の供給が止まったロシアでは、航空会社が駐機機体から必要部品を取り外して別の機体に流用する「カニバリ整備」に頼らざるを得なくなった。当然、飛べない機体は増え続け、航空網の維持は限界に近づいた。

開戦から3年が経過した2025年現在、ロシア国内では航空事故が頻発している。経済制裁が即座に戦争を止めることはないが、航空機部品という一点に絞れば、その効果は明白だ。制裁はロシアの「空の生命線」を締め上げ、継戦能力を徐々に奪っている。これは、経済と空のネットワークがいかに国家の戦略的基盤と直結しているかを示す、典型的な地経学のケースである。

インドの航空ネットワークとiPhone生産の拡大

ロシアのように地経学的な制約に苦しむ国とは対照的に、空の地経学によって特定国の経済の伸長を観察できるケースもある。一例がインドだ。インドはコロナ禍で航空輸送量が激減するが、2021年12月には増加に転じ、航空ネットワークにおける重要性が日本の羽田空港と並ぶのである。

こうした上昇の背景には、米国に渡ったインド人移民と親族の往来に加え、スマートフォンなど電子機器のサプライチェーンの拡大が同時に進んでいた事実もある。アップルは2017年に台湾企業を介してインド工場を開設(2023年にタタが買収)、2020年9月にはiPhoneなどのオンラインストアをインドに開設した。2023年4月、インド初となる直営のアップルストアがムンバイにオープンし、首都ニューデリーにも2号店が開くなど、徐々に国内シェアを伸ばし、インド工場から空路による対米輸出も拡大した。

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第2次トランプ政権はインドに対して高関税を課し、アップルに米国へのリショアリング(生産の祖国回帰)を強く求めているが、そもそもアップルの中国からインドへの移転自体が、トランプ政権1期目の強固な脱中国政策の産物である。世界へ出荷された2億3200万台(2024年)のiPhoneの約15%がインドで組み立てられていたが、アップルはiPhoneのインドでの生産比率を2027年に25%にまで拡大する計画であり、こうした産業面の上昇が今後もインドの航空ネットワークの発展に反映されるだろう。