「電動車シフト」が逆に新興国の自動車産業を強くする理由
電動車シフトが新興国の自動車産業を強くする

電動車(EV)へのシフトは、従来の内燃機関(ICE)車に依存してきた新興国の自動車産業にとって、逆説的に大きなチャンスをもたらしている。ICE車では、エンジンやトランスミッションなど高度な機械加工と多くの部品を要するため、サプライチェーンが複雑で、新興国企業の参入障壁が高かった。しかし、EVではモーターやバッテリー、インバーターなど主要部品の点数が大幅に減少し、製造工程も簡素化される。これにより、部品調達や組立のハードルが下がり、中国やインド、東南アジアなどの新興国が自国の自動車産業を強化しやすくなっている。

複雑な内燃機関からシンプルな電動駆動へ

ICE車には約3万点もの部品が必要とされるが、EVではその数が約1万点にまで減ると言われる。特にエンジンとトランスミッションは、高い精度と耐久性が求められるため、長年の技術蓄積が必要だった。新興国メーカーにとって、この領域で競争するのは困難だった。一方、EVの心臓部であるバッテリーやモーターは、化学や電気工学の知識が中心で、機械加工の熟練度よりも素材や制御技術の方が重要となる。これは、新興国でも習得しやすい分野だ。

例えば、中国のBYDやインドのタタ・モーターズは、EV市場で急速に存在感を高めている。BYDはバッテリー技術で世界をリードし、タタはインド国内でEV販売を伸ばしている。これらの企業は、ICE車では日本やドイツのメーカーに太刀打ちできなかったが、EVでは新たな競争力を発揮している。

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サプライチェーンの再編と新興国の台頭

EVシフトは、サプライチェーンの地理的再編も促す。ICE車のサプライチェーンは、日本やドイツなど先進国を中心に構築されてきた。しかし、EVではバッテリー生産に必要なリチウムやコバルトなどの資源が、南米やアフリカ、オーストラリアなど新興国・地域に偏在している。これらの資源を抱える国々は、自国でバッテリーセルやモジュールを生産し、付加価値を高める動きを加速している。

また、EVの製造工程が簡素なため、組立工場の建設も容易になり、新興国での生産拠点設立が進んでいる。国際エネルギー機関(IEA)の報告によると、2022年の世界のEV販売台数は前年比55%増の約1000万台に達し、そのうち中国が約60%を占めた。新興国市場の成長は、さらなる投資を呼び込んでいる。

日本メーカーへの影響と今後の展望

日本の自動車メーカーは、ICE車で培った高度な技術と品質で世界をリードしてきた。しかし、EVシフトはその優位性を弱める可能性がある。日本のメーカーは、ハイブリッド車(HV)で成功を収めたが、EVへの対応では出遅れているとの指摘もある。特に、バッテリー調達やソフトウェア開発で新興国メーカーに追い上げられている。

トヨタ自動車は、EV販売目標を2026年に150万台と掲げるが、BYDはすでに2023年に約300万台のEVを販売した。日本メーカーは、従来のサプライチェーンや技術を活かしつつ、EV向けの新たな協業や投資を加速する必要がある。また、EVシフトは、自動車産業の雇用構造や部品メーカーの存続にも影響を与える。経済産業省の試算では、2030年には国内の自動車部品産業で約8万人の雇用が減少する可能性があるという。

一方で、EV市場の拡大は、充電インフラや電力網の整備など新たなビジネスチャンスも生む。日本メーカーが強みを持つ燃料電池車(FCV)や、次世代バッテリーの開発競争も激化している。新興国との競争に打ち勝つためには、技術革新とスピードが求められる。

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