電気自動車(EV)の販売鈍化が、リチウム市場に深刻な影響を与えている。炭酸リチウムの価格は2022年11月の1トン当たり約8万ドルのピークから、2024年8月には約1万3000ドルまで急落。約80%の下落率を記録し、鉱山企業は相次いで生産調整を余儀なくされている。
供給過剰と需要減速が価格を直撃
リチウム価格急落の主因は、需要予測を上回る供給拡大と、EV販売の減速にある。国際エネルギー機関(IEA)のデータによれば、世界のリチウム供給量は2023年に約12万トン(炭酸リチウム換算)と、前年比30%増加。一方、EV販売台数は同年約1400万台で、伸び率は前年の60%から35%に減速した。
特に中国市場の変化が大きい。中国EV販売は2023年に前年比25%増と堅調だが、補助金縮小や経済減速が影響し、2024年の成長率は10%台に落ち込むとの見方が強い。中国は世界のリチウム消費の約60%を占めるため、同国での需要減は価格に直結する。
大手鉱山企業の対応:生産調整とコスト削減
価格下落を受け、主要鉱山企業は生産量の削減や新規プロジェクトの延期を発表している。オーストラリアの大手リチウム鉱山企業であるピルバラ・ミネラルズは、2024年7月に生産量を約10%削減すると発表。同社のデール・ヘンダーソンCEOは「現在の価格水準では、高コストの鉱山は持続不可能だ」と述べ、業界全体での生産調整の必要性を強調した。
また、チリの鉱山大手SQMは、2024年のリチウム生産量を当初計画から約5万トン減らす方針を示した。同社のリカルド・ラモスCFOは「市場の需給バランスを考慮し、生産量を調整する」とコメントしている。
資源ナショナリズムの高まりが新たなリスク
リチウム価格の低迷は、資源保有国の政策にも影響を与えている。南米の「リチウムトライアングル」(チリ、アルゼンチン、ボリビア)では、資源ナショナリズムの動きが加速。チリでは2023年にリチウム産業の国有化法案が成立し、新規契約の凍結や既存契約の見直しが進んでいる。アルゼンチンも2024年にリチウム輸出税を引き上げ、外資系企業への規制を強化した。
こうした動きは、中長期的な供給リスクを高める。国際戦略問題研究所(CSIS)のジェーン・ナカノ上級研究員は「資源ナショナリズムは短期的には政府収入を増やすが、投資環境を悪化させ、結果的に生産拡大を阻害する」と指摘する。
需要回復の兆しと技術革新への期待
一方で、リチウム需要の長期的な成長見通しは依然として明るい。ブルームバーグNEFの予測では、世界のリチウム需要は2030年までに年間約300万トンと、2023年の約3倍に拡大する。EV販売の成長鈍化は一時的で、長期的には環境規制の強化や新興国市場の開拓が需要を押し上げるとみられる。
また、リチウムイオン電池の技術革新も需要を喚起する可能性がある。全固体電池やナトリウムイオン電池の開発が進むが、当面はリチウム系電池が主流であり、研究開発投資は継続している。日本のパナソニックは2024年、次世代リチウムイオン電池の生産能力を2028年までに現在の約3倍に拡大する計画を発表した。
リチウム市場は現在、供給過剰と価格低迷に直面しているが、生産調整や資源ナショナリズムの影響で需給バランスは徐々に改善すると予想される。価格の安定化には、需要の着実な回復と、資源国と企業の協調的な投資が不可欠だ。



