トヨタ自動車とホンダが、水素燃料電池車(FCV)の戦略を大きく転換している。両社はこれまで乗用車向けにFCVを開発してきたが、今後は大型商用車や定置式発電など、より実用的な分野に注力する方針だ。この戦略転換は、水素社会の実現に向けた新たなステージへの移行を示している。
乗用車から商用車へ シフトの背景
トヨタは2023年12月、水素エンジン搭載の大型トラックの公道走行試験を開始した。同社はこれまで「MIRAI」などのFCV乗用車を販売してきたが、水素ステーションの整備不足や車両価格の高さが普及の障壁となっていた。ホンダも2024年2月、燃料電池システムを外販する新会社を設立。乗用車向けから、建設機械や船舶、定置式電源など多様な用途に展開する計画だ。
両社の戦略転換の背景には、水素の需要創出とインフラ整備の課題がある。乗用車向けでは、水素ステーションの数が限られており、普及が進んでいない。一方、大型商用車は走行ルートが決まっており、限られた数の水素ステーションでも対応可能だ。また、トラックやバスは走行距離が長く、燃料補給の時間短縮が求められるため、水素のメリットが活かしやすい。
コスト削減と量産化への道筋
トヨタは2025年までに、燃料電池システムのコストを現行比で50%削減する目標を掲げている。具体的には、電極材料の白金使用量を半減し、セパレーターの製造工程を簡略化する。ホンダも同様に、2025年までに燃料電池システムのコストを従来比で3分の1に低減する計画だ。両社は、量産効果と技術革新によってコスト競争力を高める考えだ。
コスト削減の鍵を握るのが、燃料電池スタックの生産効率向上だ。トヨタは、愛知県の工場で新たな生産ラインを稼働させ、年間3万台の生産能力を目指す。ホンダは、米国オハイオ州の工場で燃料電池システムの生産を開始し、2025年までに年間2万台の生産を計画している。
水素エンジンへの期待と課題
トヨタは、燃料電池に加えて水素エンジンの開発も進めている。水素エンジンは、既存のガソリンエンジンをベースに改良できるため、コスト競争力が高い。また、二酸化炭素を排出しないカーボンニュートラルな燃料として注目されている。トヨタは、2024年に水素エンジン搭載の「GRヤリス」を限定販売し、レースにも投入する計画だ。
しかし、水素エンジンには課題もある。燃焼時に窒素酸化物(NOx)が発生するため、排出ガス対策が必要だ。また、水素の供給インフラが整っていないため、普及には時間がかかるとみられる。トヨタは、水素エンジンを商用車や産業用機械に搭載することで、需要を創出する戦略だ。
ホンダの燃料電池システム外販戦略
ホンダは2024年2月、燃料電池システムの外販を専門とする「ホンダFCシステム」を設立した。同社は、燃料電池システムを自動車だけでなく、鉄道車両や建設機械、発電機などに供給する計画だ。ホンダは、2025年までに年間2万基の燃料電池システムを販売する目標を掲げている。
ホンダの燃料電池システムは、従来のものより体積を30%小型化し、出力密度を2倍に高めた。また、低温始動性能を向上させ、-30℃でも始動可能だ。これらの技術は、商用車や産業用機械に適しているとされる。
海外メーカーとの競争と協調
水素燃料電池市場では、韓国の現代自動車や中国の商用車メーカーが先行している。現代自動車は、2023年に大型トラック「XCIENT Fuel Cell」を欧州市場で販売開始。中国の商用車メーカーも、水素燃料電池トラックの量産を開始している。トヨタとホンダは、技術力と信頼性で差別化を図る方針だ。
一方で、両社は競争だけでなく協調も進めている。トヨタとホンダは、燃料電池システムの共通部品の調達や規格の統一を検討している。これにより、サプライチェーンの効率化とコスト削減を目指す。
水素社会実現への展望
日本政府は、2023年6月に改定した「水素基本戦略」で、水素供給量を2040年に年間1200万トンに拡大する目標を掲げた。また、水素ステーションの整備も加速する方針だ。トヨタとホンダの戦略転換は、政府の水素政策と連動しており、水素社会の実現に向けた重要な一歩となる。
専門家は、水素燃料電池の本格普及には、車両コストの低減と水素ステーションの整備が不可欠だと指摘する。トヨタとホンダの新戦略は、これらの課題を解決する糸口となる可能性がある。両社の取り組みが、水素社会の実現を加速させることが期待される。



