サポート詐欺の手口と心理的メカニズム
サポート詐欺が成功する理由は、技術的な脆弱性ではなく、人間の心理にある。神戸大学名誉教授の森井昌克氏は、その背景として、パソコンを操作できてもその意味を理解していないユーザーが多いことを指摘する。「許可する」「インストールする」「画面共有を開始する」といった操作が、相手へ管理権限を渡すことにつながると知らなければ、詐欺師の指示に従ってしまう。
もう一つの要因は責任感だ。仕事中に突然エラー画面が表示されると、「自分の操作で業務を止めてしまったのではないか」と焦る。そこへ「今すぐ対応しないと危険です」「急いで操作してください」と畳みかけられると、冷静な判断は難しくなる。サポート詐欺が狙っているのはコンピューターではなく、不安や責任感といった人間の心理そのものなのである。
企業・学校・自治体に広がる被害
企業向けの詐欺は転換期を迎えており、ビジネスメール詐欺、ボイスフィッシング、CEO詐欺、サポート詐欺など、手口は多様化している。いずれも共通するのは、コンピューターではなく人を標的にしている点だ。被害額は億単位に上るケースもあり、学校や自治体も例外ではない。犯罪者は利用者の信頼、不安、責任感を巧みに利用し、自ら認証させ、自ら操作させることで組織への侵入や不正送金を実現している。
DXの進展により、企業活動のネットワーク依存度が高まり、サイバー攻撃と詐欺は切り離せない存在となった。今後は、不正アクセスと詐欺を別々の問題として捉えるのではなく、一連の企業犯罪として対策を講じる視点が欠かせない。
求められる「知識」ではなく「理解」
企業の対策で最も重要なのは、「自分はだまされない」という思い込みを捨てることだ。警告画面に表示された電話番号へ連絡しない、相手に指示されても遠隔操作ソフトを導入しない、送金に利用する端末で異常が起きた場合は自分だけで判断せず情報システム担当者へ相談する――こうした基本ルールの徹底は欠かせない。
しかし、真に求められるのはルールの暗記ではない。なぜ遠隔操作が危険なのか、なぜ画面共有で権限が奪われるのか、二要素認証があっても被害が起こるのはなぜなのか。その仕組みまで理解していれば、不審な操作を求められたときに立ち止まって考えることができる。セキュリティ教育は「やってはいけないこと」を教えるだけでは不十分であり、パソコンやネットワークの基本原理を理解する教育こそが、人をだます攻撃への最大の防御となる。
持続可能なサイバーセキュリティ対策
企業を守るのはセキュリティ製品だけではない。犯罪の仕組みを理解し、異常に気づき、冷静に判断できる人材を育てることが、最も効果的で持続性のあるサイバーセキュリティ対策なのである。東洋経済Tech×サイバーセキュリティでは、サイバー攻撃、セキュリティの最新動向、事業継続を可能にするために必要な情報を発信している。



