日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ(以下、日本TCS)は2026年8月5日、事業戦略説明会を開いた。多くの日本企業が、生成AIの実証実験(PoC)から先に進めずにいる。日本TCSの新宅一夫氏(COO〈最高経営責任者〉 グローバルコンサルティングプラクティス統括本部長)は、その原因を技術の優劣に求めるのは誤りだと述べ、日本企業に共通する2つの構造を挙げた。
30年前の判断と人材減少
1つは、1990年代後半に多くの企業が下した、ある経営判断だ。もう1つは人材の減少である。国内の製造業では、34歳以下の若年就業者が20年余りで3割近く減った。国内の採用活動だけで、AIを業務に組み込める人材を確保するのは難しくなっている。
技術ではなく構造に原因があるなら、企業は何から手をつけるべきなのか。新宅氏の説明は、30年前の判断が企業から奪った「ある能力」に向かう。
奪われた能力とは
奪われた能力とは、自社の業務プロセスと必要な要件を、自分の言葉で説明する力だ。
日本TCSの新宅氏によると、起点は1990年代後半にある。当時、多くの日本企業は「ITはノンコア(本業以外の業務)であり、アウトソースすべきもの」と判断した。IT関連業務を情報システム子会社へ切り出し、そこからさらに外部ベンダーへ委託する多重下請け構造が定着した。
この判断から約30年がたった。ユーザー企業が要件や仕様を曖昧なまま渡し、ベンダーが前提条件を代わりに設定する。結果として機能の漏れ漏れがある過剰設計のシステムと、ブラックボックス化した仕様が残ったという。
同社は、生成AIの活用が部分最適やPoCどまりで終わる本質的な原因を、ユーザー企業側の主導権の欠如とベンダー依存の構造の2点に整理した。
人材市場で起きている変化
説明会では、国内の製造業における34歳以下の就業者数の推移と、世界のGCC(グローバルケイパビリティセンター)動向を比較するデータが示された(図1)。国内の人材が減る一方で、企業が人材を求める先は海外へ広がっている。
日本TCSは、AIネイティブな企業に必要な力を次の3つに整理する。
- 業務知見:現場と事業を理解し、オペレーションを実行する力
- IT主導と内製力:設計と意思決定を自社で担い、システムを動かす力
- AI実装力:AIを業務やシステムに組み込み、継続的に進化させる力
同社は、この3つを兼ね備えた人材プールを社内のリソースだけで構築するのは難しいとしている。
「IT主導」を取り戻せるか
国家や企業が自前のAIを抱え込む「ソブリンAI」が関心を集めている。日本TCSは、その前提として自社の業務やシステム、データに対する自己決定権の確立が必要だと位置付けた。AIは単独では機能せず、自社の業務やシステム、データが伴って初めて効果を発揮するという。
同社が挙げる論点は2つある。一つは、自己主導のデータガバナンスと、移行の自由を意味するポータビリティの確保だ。もう一つは、内製するコア領域と外部に委託するノンコア領域の線引きだ。データの流出や特定ベンダーへのロックインは避けるべきだという。
主導の喪失はユーザー企業だけの問題ではない。ITサービス企業の側も主導を失えばサービスがコモディティ化し、価格競争に転じてAIプラットフォーマーに従属すると説明した。
人材の確保策として示されたのが、内製と外注、国内と海外を組み合わせる考え方だ。海外に自社専用の拠点を置くGCCは、この整理では「海外での内製」に当たる。TCSは2026年6月、GCCの構築を支援する組織「GVIC(グローバルバリュー・イノベーションセンター)」を新設した。日本TCSも、顧客の要件に応じてニアショアやオフショアを組み合わせる支援体制を置く。
新宅氏は、設計や構築といった下流工程はAIが代替できる時代であり、重要なのは「何をしたいか」という要件を定義することだと述べた。同社は、要件定義に自ら責任を持たない顧客とは取引しない場合もあるとの姿勢も示した。どのサービスを使っても主導権は顧客側に置く。この考え方を「We manage, you control」と表現した。



