三井住友信託銀行、勘定系はオンプレ維持で情報系はAWS集約へ 残す判断と移す判断の線引きとは
三井住友信託銀行、勘定系はオンプレ維持で情報系はAWSへ

三井住友信託銀行は、勘定系システムをオンプレミスで維持しつつ、情報系システムをAWSに集約する方針だ。既に250以上のシステムをAWSで稼働させ、AWSと共同で立ち上げた「All-Out Cloud Factory」を軸に、技術・人材・文化を一体で育てる取り組みを本格化させている。

勘定系はオンプレミスに残す理由

同行の河村嘉徳氏(執行役員)が「AWS Summit Japan」(2026年6月25〜26日開催)で講演した「三井住友信託銀行の戦略的AWS投資と組織イノベーション」の内容を報告する。

河村氏はまず、信託ビジネスの特徴とAWSの活用方針について次のように説明した。「信託とは、さまざまな社会課題やお客さまのニーズに応じた『少量多品種のオーダーメイド型サービス』であり、商品やプロセスの設計を含めてモノづくりに近い側面を持っています。現在は、ホスト(勘定系)やOA系を除く情報システムを全てAWSに集約し、リソースやコストの面でスケールメリットを享受しています」

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同行は、勘定元帳や端末、ATM、全銀システムなど銀行の心臓部分に当たる勘定系システムを、ホスト・オンプレミス基盤で稼働させている。基盤全体をクラウド化してモダナイズするのではなく、他のチャネル系システムからAPIを通じて呼び出す仕組みを構築しているという。

河村氏によると、勘定系システムは入出金処理が中心でビジネスロジックの大幅な変更が頻繁に発生しないため、無理にクラウド化せず現行基盤を積極的に維持する方針だという。使用している開発言語についてもホストシステムとしての歴史があるものの、社内で人材を育成する体制が整っているため、今後の維持・継続ができると判断している。

情報系システムはAWSに集約、3つのフェーズで移行を推進

一方、OA系はオフィススイートを中心にクラウドを利用しており、業務系の情報システムはAWSに集約する方針だ。「AWSは、数あるシステムのワン・オブ・ゼム(単なる選択肢の一つ)ではありません。インフラを必要とする情報システムを全て集約しており、既に250以上のシステムがAWSで稼働しています。当社にとってのメイン環境です」

三井住友信託銀行はこれまで、3つのフェーズでAWSを導入・活用してきた。2017〜2019年のフェーズ1では、クラウドファーストの方針のもと業務アプリを原則AWSに移行し、IT環境・開発プロセスのシンプル化を推進した。

「オンプレミスと同じようなセキュリティ基盤、統制基盤、運用基盤をAWSに構築し、1つのVPC(Virtual Private Cloud)で管理するという行内拡張環境でした。クラウドをIaaSで利用するという構成です」

続く2020〜2025年のフェーズ2では、最重要となる勘定元帳(統合勘定管理DB)の移行や、SWIFT(国際送金ネットワークシステム)などの基幹システムもクラウドネイティブ化を目指した。「『Amazon Aurora』やコンテナなどのクラウドネイティブなサービスを標準にしました。サービスを個別に使いたい場合は、監査や運用などの共通基盤を個別環境に適用しながら利用できるようにしました。統制を強めつつも自由度を高め、2025年5月には統合勘定管理DBのAWS移行を決定しました」

2026年以降、セキュリティ・アジリティ・レジリエンシーを期待してAWS採用を決定

2026年以降のフェーズ3は今後の取り組みとなる。単にPaaSやIaaSとして利用するだけではなく、クラウドネイティブ化による「境界破壊」を掲げている。より高いアジリティと、より統制の効いたインフラ運用を目指すものだ。

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「中身を深く理解し、自前でスクラッチ開発したような環境をより素早く、強固に構築することを目指しています。例えばAuroraを使う場合も、単に可用性が高いから選ぶのではなく、自前構成とのACID特性の違いや障害発生時のダウンタイム・復旧挙動まで勘案した上で採否を決めます。こうした技術検証を『当たり前のように使い倒す』レベルを目指しています」

そもそもなぜ三井住友信託銀行はAWSを選択したのか。まず出発点となったのは「個人でも法人でも、お客さま一人ひとりのために今までにないサービスをたくさん創案し、届けたいという、モノづくりの精神とこだわり」だった。もっとも、こだわりが強すぎると非効率になったり、時間がかかったりするケースに陥りやすい。

「取引先ごとに年金管理システムを作ったり、不動産や証券代行で勘定ごとにシステムを構築したりといった例がありました。結果的に個別システムが乱立し、似て非なる機能が氾濫します。そういう状態になると、ガバナンス、セキュリティの統一性が損なわれます」

こうした「個別最適化による共通機能の重複」や「統一したガバナンス・セキュリティ構築の難しさ」といった課題を克服するために選択したのが、AWSだった。

「少量多品種な信託ビジネスは、部品を組み合わせるAWSの思想と非常に親和性が高いと考えました。AWSを標準化することで、開発・運用プロセスの統一も進んでいます。期待した効果は、最新脅威に対応するセキュリティ向上(Migration for Security)、迅速なシステム構築(Migration for Agility)、耐障害性と品質の安定(Migration for Resiliency)の3つです」

AWSと共同で新組織「All-Out Cloud Factory」を設立、戦略的"Bet"をさらに加速

AWS採用という「戦略的"Bet"(賭け)」の成果として、効果を感じていることの一つがセキュリティ運用の高度化だ。

「Claude Mythosが登場して以降、オンプレミスのセキュリティパッチ適用を自分たちでやり切ることが難しくなっていると感じます。検証環境の構築から手掛ける必要がありますが、クラウドなら迅速に環境を用意でき、ミドルウェア領域の運用もAWSに任せられます。自社で担うべき範囲を大幅に絞れるため助かっています」

ではフェーズ3でどのような取り組みを進めているのか。まず、戦略的"Bet"を推進し、より高いアジリティと、より統制の効いたインフラ運用を実現するために、新たな組織を設立した。三井住友信託銀行とAWSが共同で設立した「All-Out Cloud Factory」だ。

「クラウドネイティブ化やAI-Ready化に総力(All-Out)で取り組むための、共創活動の現場(Factory)です。クラウドの機能をパーツとして使い倒し、モノづくりを主役に置く組織として構成しました。推進軸として『標準化』『プラットフォームエンジニアリング』『データ利活用』の3つを掲げています」

1つ目の「標準化」では、オープンかつマネージドで信託特性に合う技術標準を策定。2つ目の「プラットフォームエンジニアリング」では、耐障害性と拡張性に優れたアーキテクチャを構築。3つ目の「データ利活用」では、AI・データを活用する基盤を整備して新規ビジネスの価値創出を目指す。これらを「新規ビジネス」「既存アプリ」「既存基盤」の3領域で展開していく。

「具体的なタスクは、高度IT人材による内製化、技術標準化・共通化、モダナイズ、保守・運用業務の効率化、データ利活用などに分類して推進しています。生成AIのように具体的なニーズがあるものを全社展開するアプローチに加え、個別案件の支援を通じて抽出した課題を新たなタスクとして横展開する取り組みも進めています」

その中で、2つの共同プロジェクトとして「統合勘定元帳の移行」「生産性基盤の構築」を紹介した。

統合勘定元帳の移行プロジェクト、生産性基盤の構築プロジェクトを推進

1つ目の統合勘定元帳の移行プロジェクトは、オンプレミスの「Oracle Exadata」で運用していた勘定元帳をはじめとするDB群を、「Amazon Aurora PostgreSQL」へ移行する取り組みだ。DBMSをOracleからPostgreSQLへ変換する必要があるため、「AWS Generative AI Innovation Center」(GenAI IC)から提供された「Amazon Bedrock」ベースのツールを活用し、移行を効率化している。

「パッケージやファンクション、プロシージャ、ProC(プリコンパイラ)、PL/SQL、XMLなど、勘定元帳をはじめとする4000本を超えるプログラムの移行が必要です。この膨大な作業に対し、AIエージェントツールを活用することで迅速化と効率化を図っています。移行成功後はこれを標準化のひな型とし、変換対象を拡大していく計画です。移行と標準化の『起爆剤』として位置付けています」

2つ目の生産性基盤の構築は、資産運用ビジネスに関するユーザー向け統制プラットフォームの構築プロジェクトだ。ユーザーが自らSQL文を書き、本番環境にプログラムを自分たちでリリースする取り組みを進めている。その際に、情報システム部が品質やセキュリティを保証するのではなく、ある程度、ユーザー部門で実施できるようにするための基盤を構築した。

「ユーザー部門がリリースまで担うと、品質にバラつきが生じたり、無限ループによってシステム全体がダウンするリスクがあります。そこで、簡易的な運用統制基盤(EUC統制基盤)を構築して提供することにしました。パイプライン上のライブラリ管理や、テスト・本番リリースの重要プロセスを自動化し、ユーザー自身で確認・実行できる環境を整えることで、品質とセキュリティの両立を図っています」

AWSとの協業においては、人材育成や組織変革に向けた取り組みも推進している。三井住友信託銀行は2026年4月にシステム子会社を本体へ統合したが、「組織を一体化したからといって、目指すべき文化が自然と醸成されるわけではない」と河村氏は指摘する。

「ものをつくる楽しさを感じてもらう取り組みとして、AWSの協力を得ながら『TECH JOURNEY』というサークル活動を推進しています。2025年度は15回開催し、延べ3000人が参加する規模に成長しました。幅広い技術領域に精通したエンジニアの育成や、モノづくりを通じたエンゲージメントを高める貴重な場となっています」

最後に河村氏は、AWSと技術・文化の両面で協業を進めながら、「お客さま一人ひとりに合わせたオーダーメイドなサービスインフラの提供」「少量多品種のスケール化」「統制と効率の両立したインフラ部門の実現」を目指すことを掲げ、講演を締めくくった。