コードを書く知識がなくてもソフトウエアを開発できる「ノーコード」ツールが、企業の業務効率化や障害者雇用の新たな可能性を広げている。専門エンジニアへの外注に頼らず、システムの一部を自前で作れるようになることで、コスト削減や商取引上のリスク回避が期待できる。
ノーコードで広がる障害者雇用の可能性
ノーコードツールを活用したDX人材育成研修サービスを提供するセラピア(東京都墨田区)の講師、立石大伸さん(24)は、生まれつき手足が不自由で電動車いすに乗っている。手の代わりに棒を口にくわえてパソコンを操作し、高校時代から「パワーポイント」も使ってきた。
立石さんは昨年、区内のコワーキングスペースで同社社長の田中圭さん(42)から声をかけられた。「こんな事業に興味ありませんか?」と。田中さんが開発した障害者向けの「ノーコードスキルの習得と就労機会の創出」事業が、東京都のIT実装促進プロジェクト「Be Smart Tokyo」に採択された直後だったが、身近に当事者がいなかった。そこに現れた立石さんはデジタルネーティブ世代で、声も明るくよく通る。
「ノーコードを活用すれば、ハンディキャップの壁を越えて本来の能力を発揮できる。そんな社会を目指そう」と田中さん。2人は意気投合した。
実証結果発表会で示された成果
それから1年後の8月6日、2人は伊藤忠テクノソリューションズの特例子会社CTCひなり(東京都港区)で開かれた、都に採択された障害者の人材育成支援事業の実証結果の発表会にいた。立石さんから62時間のオンライン研修を受けた、精神障害を持つCTCひなりの30代女性社員が、社内カフェ食品の賞味期限・在庫管理アプリを開発した成果を報告した。
「職場の課題をヒアリングし、解決のためのアプリを形にすることができて、大きな達成感があります」と女性社員。約40人の関係者を前に立石さんも登壇し、「受講者の特性を見て相手のペースを尊重し、図解やクイズ形式で理解を引き出す工夫もした」と述べた。
労働人口が減少するなか、企業に一定数の障害者雇用を義務付ける法定雇用率が7月に引き上げられ、戦力化は急務だ。都の担当者も「ノーコードが『適材適所』の概念を変える」とインクルーシブ社会への期待を寄せた。
中小企業の課題とセラピアの取り組み
あらゆるシーンでDX推進が不可欠となり、ノーコードツール導入には行政も補助金などで支援を行うが、「問題はその先にある」と田中さんは指摘する。特に中小企業では使いこなせていないケースが多く、解決に向けて4年前に本事業を始めた。導入実績は40社、200人超に上る。
医薬・ワクチン開発メーカーのMSDを経て起業した田中さんは、なぜ畑違いのDX人材育成を手がけることになったのか。「元々は医療系サービスのスタートアップで、銀行からの借り入れで業務アプリを外注しました。でも、業者が製作に失敗してアプリはできず、借金だけ残る形になったんです」と明かす。
「契約書に難があった。自分の汚点であり業界の闇の部分で表に出にくいが、周りに聞いてみたら同じような境遇の人が結構いた。アプリが自製できたらこんな痛い目に合わないで済み、リスク回避になる。企業がITベンダー(販売業者)に過度に依存することなく、現場の社員が自らシステム開発とバージョンアップに携われるよう、伴走サポートを続けたい」と語る。
ノーコードを使う非エンジニアに対して、エンジニアはより難度と専門性が高い業務へと、すみ分けが進んでいくと見据える。
立石さんは「自分は誘いにのっかるタイプ。色々なことが急展開で進んだ」と1年を振り返った。似合いのバディーに見える2人。出会いは運命を変えるというが、DXがそのスピードも加速させていたようだ。



