かつては、そもそも何が論点なのかを知ること自体に時間も費用もかかった。専門知識へのアクセスが限られていたからだ。いまは、提示された契約書で確認すべき点や、財産分与で何が論点になるのかを問いかければ、数秒で論点の見取り図が返ってくる。
ただし、そこで得られるのは一般的な整理にとどまる。その整理が自分のケースに当てはまるのか、複数の選択肢のうちどれを取るべきか。この判断は、AIの出力からは出てこない。前提となる事実関係の置き方を誤れば、整理そのものが的外れになることもある。
実際に相談の現場で起きているのは、「専門家が不要になった」ことではない。「ある程度調べた状態で相談に来られる方が増えた」という変化だ。専門職に求められる役割は、ゼロから説明することではなく、持ち込まれた情報を検証し、その方の事情に照らして判断することへと移りつつある。
AIが担えるのは「判断の周辺」にある業務
AIが力を発揮するのは、情報の整理、記録、書面のドラフト、過去事例の参照といった、判断の前後に発生する作業だ。ここは確実に効率化が進む。
一方で、依頼者から事情を聴き取り、何が本当の争点かを見極め、その方の状況に合わせて方針を決める。この部分は専門職の判断そのものであり、置き換わるものではない。
AIの出力は人が確認し、必要な判断は専門職または責任者が行う。この前提は、技術がどれだけ進んでも変わらないと考えている。
海外で始まった市民向けツール
海外では、定型的な書面の作成を支援するツールが市民向けに提供され始めている。日本でも、周辺業務を支える仕組みは今後さらに広がっていくでしょう。
ただしそれは、専門職の判断を代替するものではなく、専門職が本来の業務に集中できる環境を整えるものだ。
知識が行き渡った先に、人がいる
情報が手に入りやすくなったことで、かえって迷いを抱える方も増えている。画面に表示された内容を前に、「本当にこの通りに進めて大丈夫なのか」と立ち止まる。その問いに答えられるのは、事情を聴き、責任を持って判断できる人だけだ。
知識が行き渡るほど、最後に問われるのは「この人に任せて大丈夫か?」という信頼になる。テクノロジーの先にある、より高度で、より泥臭い「人間にしか扱えない領域」へシフトすること。それだけが、これからの時代に生き残る唯一の道なのです。
著者
島田雄左 株式会社スタイル・エッジ代表取締役社長。1988年、福岡県生まれ。24歳で司法書士事務所を開業。国内トップ規模の士業グループに成長させる。その後、自身の経営経験を元に、株式会社スタイル・エッジ代表取締役に就任。共創型ビジネスモデルとして士業や医業のコンサルティングを行っている。YouTubeやXで法律、仕事、マネーリテラシーなどさまざまな情報を配信中。著書に『士業経営』『人生で損しないお金の授業』(共に税務経理協会)がある。



