ある動物園で飼育されていた15歳のオスのアヒルが突然死した。飼育員からの依頼で病理解剖を行ったところ、肝臓がフォアグラのように白く脂肪化していることが判明。足の裏には野生の鳥ではほとんど見られない趾瘤症(しりゅうしょう)が認められ、ふれあい展示の環境が動物に与える負担が浮き彫りとなった。
突然死のアヒル、解剖で判明した異常
獣医師で獣医病理学専門家の中村進一氏によると、飼育員からは「人に感染する病気が原因かもしれない」との懸念から病理解剖の依頼があったという。過去には日本国内で、鳥類展示施設の鳥から人へのオウム病の集団感染や、観光牧場のウシから人への腸管出血性大腸菌の感染が報告されており、動物園には獣医師が常駐していないため、飼育員は日頃から健康管理に不安を抱えていた。
解剖前の外観観察では、栄養状態は良好だったが、両足の裏に趾瘤症が確認された。趾瘤症は鳥の足の裏に起こる慢性炎症で、皮膚の硬化から始まり、傷や潰瘍を経て細菌感染に至る。重症化すると骨髄炎や全身感染を引き起こすこともある。動物園では包帯やクッション材で対処するが、体重がかかる部位であるため完治は難しく、再発も多い。野生の鳥ではほとんど見られないこの病気は、飼育環境に起因するものだ。
なぜ肝臓がフォアグラ化したのか
内部の解剖では、肝臓が著しく肥大し、白く変色していた。これは脂肪肝、いわゆるフォアグラのような状態である。中村氏は「閉鎖的な空間での運動不足と、餌に困らない環境による肥満が、肝臓に脂肪を蓄積させた」と指摘する。飼育下の鳥はコンクリートなどの硬い床で長時間過ごし、運動不足になりやすく、結果として足への負担と内臓の脂肪化が同時に進行したと考えられる。
このアヒルはふれあい展示で飼育されており、来園者が直接触れ合える環境にあった。しかし、そのような展示方法が動物の生理的な負担を増大させている可能性がある。中村氏は「ふれあい展示は命の学びにつながる一方で、動物たちの福祉を考慮した運営が不可欠だ」と警鐘を鳴らす。
ふれあい展示の代償と今後の課題
今回の事例は、動物園におけるふれあい展示のあり方に一石を投じる。動物と人との距離が近いほど感染症リスクも高まるが、それ以上に動物の健康管理が行き届かない環境が問題だ。中村氏は「飼育員だけでは限界があり、専門の獣医師の定期的な関与が必要」と訴える。また、来園者にも動物の負担を理解した上でふれあいを楽しむ意識が求められる。
突然死したアヒルは、フォアグラのような肝臓と趾瘤症という二つの病態を示した。これらはすべて、飼育環境が原因で引き起こされたものだ。動物園が教育と保全の場であるならば、動物の健康を最優先にした展示方法を模索する必要がある。



