今年は1926年の昭和改元から満100年の節目にあたる。政府は2024年7月から識者への意見聴取を重ね、関連行事を準備してきた。その中核となったのが、4月29日に政府主催で開かれた「昭和100年記念式典」だ。
式典の内容と識者の見解
式典の開催は、当時の岸田首相に麻生元首相が進言して決まったという。麻生氏は超党派の議員連盟も作り、保守に偏りすぎない政治環境を整えた。京都大学の奈良岡聰智教授(日本政治外交史)は「周年行事は、同じ国家、社会に暮らす人々が、共通の精神的基盤を作るきっかけとなりうる。異なる歴史観や立場に配慮して進めてほしい」と指摘する。
奈良岡氏は2018年の「明治150年」の行事にも関わり、今回も政府に助言した。「戦前と戦後の連続性をどうとらえるのか、といった複雑な昭和史を考え、内外にも発信するチャンスとするべきだ」と語る。東京大学名誉教授の山内昌之氏(国際関係史)は「昭和は二つの時代を経験した。前半は立憲君主制で、敗戦後は天皇を象徴とする民主主義国家だ。世界史でも珍しい変革の成功例として考える機会に」と提言した。
式辞と批判
しかし、100年式典は大方の想定から外れた内容となった。高市首相は式辞で、戦前の日本や先の大戦の惨禍などにほとんど言及せず、天皇、皇后両陛下をお招きしながら、お言葉の機会もなかった。式辞は大戦に一言触れた後、いきなり戦後に飛び、「先の大戦の後、昭和天皇は全国各地を巡幸され……」と続く。「平和」には触れず、最後は「日本列島を、強く豊かに。」と、2月の衆院選の自民党スローガンで結んだ。
会場にいた奈良岡氏は「正直がっかりした」と振り返る。山内氏も「高市さんは歴史の構造を理解しているのだろうか」と嘆いた。
国際的な文脈と求められる姿勢
今年は米国も建国250年という周年だった。トランプ大統領は各地の祝賀行事で自らの“歴史的功績”をアピールした。トランプ氏は米国の人種差別や奴隷制などの負の歴史を「社会を分断するイデオロギー」として遠ざける。歴史と虚心に対峙しない態度は、分断を一層深めている。米メディアの多くは「歴史を都合よく書き換えている」と指弾する。
国家的な記憶には必ず、「何を覚えて、何を忘れるか」という政治の選択が介在する。大事なのは、選ぶ側の指導者が「歴史の前に謙虚であること」だ。



