みずほ証券が2000人態勢で挑んだスペースX上場、総力戦の舞台裏
みずほ証券2000人態勢でスペースX上場、総力戦の舞台裏

米宇宙開発企業スペースXの新規株式公開(IPO)において、日本国内で1兆円超の需要が集まり、約3500億円が販売された。販売の8割を担ったみずほ証券は、全国約2000人の営業担当者を総動員。通常なら数日を要する業務を数時間で処理する異例のオペレーションで臨んだ。今回の大型案件への対応は、米オープンAIや米アンソロピックなどIPO予備軍が控える中、今後の米国株販売へのモデルケースとなる可能性がある。

2000人態勢の「総力戦」

日本時間6月12日午後、スペースXの公開価格が決定し、日本向け販売の申し込み受け付けが一段落すると、みずほ証券で全国の営業店を統括する営業店業務部長の北山貴之氏はようやく安堵の表情を浮かべた。米国IPOは価格決定の翌営業日に上場するため、日本のIPOのような数日間の申し込み期間がない。正式な目論見書が利用可能になってから投資家への説明、注文の受け付け、約定処理まで、日本では通常4日程度かけるところを実質6時間ほどで終える必要があったからだ。

スペースXのIPOでは、日系金融機関として唯一、みずほフィナンシャルグループ傘下の米国みずほ証券が幹事団に加わった。同社から委託を受けたみずほ証券のほか、楽天証券とSBI証券が日本国内で販売し、みずほは約8割を担った。

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同社が米国上場企業の株式を日本で販売するのは、2026年のPayPay以来となる。関係者の1人は「ペイペイで土台はできた」と話す。ただ、ペイペイの日本向け販売の約200億円に対し、スペースXは約3500億円と15倍超だった。みずほは当時構築したオペレーションを土台に、販売額や需要規模ごとのシナリオを想定し、人員配置や注文処理能力を何度も検証した。

特に営業現場の処理能力を重視。対面証券であるみずほ証券では、営業担当者が顧客一人一人に連絡を取り、購入意思を確認する必要がある。米国株はドル決済となるため、為替対応の整備も欠かせなかった。そこで全国約2000人の営業担当者が臨戦態勢を取り、コンタクトセンターや本社部門もバックアップに回る体制を構築した。

日本市場への上場を伴わない売り出し

今回活用されたのは、日本市場への上場を伴わない日本での株式の募集・売り出しに当たる「POWL(Public Offering Without Listing)」と呼ばれる手法。かつては香港や欧州企業などによる活用例があったものの、2014年に香港に上場した中国系食品大手WHグループ(万洲国際)を最後に下火になり、米国IPOに関しては09年以降、日本市場での実施は途絶えていた。

26年のペイペイ上場で久しぶりに復活し、初めて日本企業によるナスダック上場の株式を国内個人投資家に販売した。スペースX案件は、その経験を本格的な大型案件に発展させた事例となった。

関係者によると、世界の個人投資家への販売も重視したスペースXは、日本をリテール投資家の購買力が強い市場として認識していたという。結果として、日本では1兆円を超す需要が集まり、募集金額に対する需要倍率は3倍超となった。

次の大型IPO見据え

スペースX案件は、日本の個人投資家による海外大型IPOへの投資需要の大きさを示しただけでなく、米国に上場する企業の株式を日本で販売する新たなモデルケースとなる可能性がある。みずほ証券の北山部長は「米国IPOをはじめ、投資家にとって意義のある案件に今後も積極的に取り組みたい」と意気込む。

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同証券の武井隼人・エクイティシンジケーション部長は「日本のリテール投資家に販売できることは、企業にとって新たな株主層を取り込む意味がある」との考えを示す。オープンAIやアンソロピックなどIPO予備軍とされる企業についても、日本市場を活用した同様の取り組みが広がるか注目される。

みずほが今回、スペースXの主幹事団入りを果たした背景には、米国市場で先行して積み上げてきた事業基盤もある。15年にロイヤル・バンク・オブ・スコットランドから北米貸出資産を取得したのを契機に、米国での引受業務や販売体制を強化。グループ銀行の資金・資本力も背景に、債券市場においては、近年は大手欧米銀が並ぶリーグテーブルでも上位に食い込む。

日本企業によるドル建て債や海外企業による円建て債の発行も増加する中、主幹事案件を相次いで獲得。債券だけでなく株式引受業務でも存在感を高めるみずほに対し、競合する大手証券会社の幹部は「もっと人を張っておくべきだった」と警戒感をにじませた。