政治・経済・投資の交差点から、市場の深層を読み解く連載。今回は、トランプ大統領とイランとの間で結ばれた「覚書」を巡る駆け引きと、その影響を考察する。
結局「覚書」締結で、当面の相場は「TACO」に賭けていた側の勝ち
トランプ大統領はヴェルサイユ宮殿で覚書に署名した。筆者としては、地政学リスクが守備範囲である。アメリカとイランの停戦合意は、はたしてどの程度信用できるのか。ドナルド・トランプ大統領とイランのペゼシュキアン大統領は17日に暫定合意に署名した。となれば、その後の「60日間の交渉期間」の中には、7月4日の独立記念日、すなわち建国250周年が含まれる。トランプ大統領としては、そのことで一息つけるはずである。
ここに至る過程で、トランプ大統領は「TACO」(Trump Always Chickens Out=トランプはいつも最後に日和る)と言われ続けてきた。イラン問題も「心配は要らない。どうせ最後は譲歩して勝利を宣言するんだから」とささやかれていたものだ。
「NACHO」も選挙対策だった?
ところがこの2カ月くらいのトランプ大統領は、「合意は近い」と繰り返しながらも、ときに「イランの核保有は許さない」式の強気発言も飛び出した。そこで市場関係者の間では、「NACHO」(Not A Chance Hormuz Open=ホルムズ海峡開放は無理っぽい)という新語が登場した。タコスかナチョスか、メキシコ料理の2択問題というわけだ。
それというのも、5月から6月にかけては毎週のように、全米各州で予備選挙が行われている。トランプ大統領としては、自らの忠実なるMAGA支持者向けの「強気発言」が必要になってしまうのだ。
とはいえ、7月4日まで残り1カ月を切り、FIFAワールドカップも開催され、イランチームもアメリカに到着する始末。だんだん洒落にならなくなってきた。そんな中で、ご自身の80歳の誕生日(6月14日)、そしてエビアンG7サミット(6月15-17日)というタイミングで、ようやく合意がまとまったということのようだ。
今回の「110日戦争」をどう評価すべきか
昨年、行われたアメリカとイスラエルによるイラン攻撃は、「12日間戦争」と呼ばれている。1967年の第四次中東戦争が、「6日間戦争」と呼ばれたことにひょうそくを合わせている。この間のネーミングの妙については、当欄1年前の拙稿(「12日間戦争」「ひとつの大きな美しい予算」…あまりに絶妙すぎる「トランプ大統領ネーミング術」の謎を解く=2025年7月5日配信)に詳しいのでご参考まで。
だが、イラン戦争は本当に終結できるのだろうか。覚書は暫定的なものであり、恒久的な和平にはほど遠い。市場は一時的に「TACO」勝利を祝うが、地政学リスクは依然として燻り続ける。今後の交渉次第では、再び緊張が高まる可能性も否定できない。



