東京・足立区に、ベトナム人の駆け込み寺として知られる大恩寺がある。開山したのは、7歳で仏門に入った尼僧、ティック・タム・チーさんだ。ある日、この寺に数百人の人々が集まり、その光景が話題を呼んだ。
「どうしても」と7歳で出家、尼僧の半生
タム・チーさんは幼い頃から仏教に強く惹かれ、7歳のときに「どうしてもお坊さんになりたい」と家族を説得して出家した。その後、ベトナムで修行を積み、日本に渡ってからも精力的に活動。埼玉県本庄市にあった大恩寺を拠点に、在日ベトナム人の支援を続けてきた。
「コロナのときに比べれば生活に困っているベトナム人はずいぶん減りました。それでも、精神的に悩んでいる人はまだまだたくさんいます。孤独とか、将来の進路をどうしようとかね」とタム・チーさんは語る。
駆け込み寺としての役割
大恩寺には、恋愛相談から労働事故や自殺、病気で亡くなったベトナム人の供養、遺骨の遺族への届けまで、さまざまな相談が寄せられる。また、日本で暮らすうちに仏教を学びたいと考える若者たちも訪れる。タム・チーさんは、そうした人々のためにも、本庄より便利な東京都内に新たな寺を開くことを宿願としていた。
「地域の日本人との交流の場になれば」と、足立区綾瀬を選んだ。実際、足立区在住のベトナム人は4511人で、東京23区では江戸川区に次いで2番目に多い(2025年6月時点、法務省調べ)。本庄の大恩寺はタム・チーさんと関係者が協力して引き続き運営する。
地域との交流を重視
タム・チーさんは、ベトナム文化の紹介や料理教室、日越交流の歴史を伝えるイベントなどを計画している。「建設時からご近所を何度も回って、どういう場所になるのか説明を繰り返してきました。本庄のお寺の農園で収穫した野菜や果物もお持ちしたりして。私が地域によく顔を出して、積極的に会話をしなければならないと思っています」と語る。
数百人が集ったこの日も、ベトナム人たちが母のように慕うタム・チーさんのもとで、笑顔と涙があふれる一日となった。



