サウジアラビアが2034年のFIFAワールドカップ開催権を事実上独占した背景には、同国とFIFA会長ジャンニ・インファンティーノとの特別な関係がある。サウジアラビアは巨額のオイルマネーを武器に、スポーツ界への大規模な投資を進めてきた。2018年にはアメリカの人気プロレス団体WWEと10年契約を結び、国内興行を開始。2021年10月には公的投資基金(PIF)が主体となる共同事業体がプレミアリーグのニューカッスル・ユナイテッドを3億ポンドで買収した。同月には男子ゴルフの新リーグ「LIVゴルフ」を設立し、PGAツアーに挑戦。2021年12月にはF1サウジアラビアグランプリを初開催した。国内サッカーリーグも大改革し、2023年にPIFがアルヒラル、アルナスル、アルイテハド、アルアハリの4大クラブを買収。クリスティアーノ・ロナウドやネイマールらスター選手を次々に獲得した。
国家アピールの最高の舞台としてのW杯
これらの投資の集大成として位置づけられたのが、W杯の初開催である。世界最大のスポーツイベントであるW杯は、国家アピールの絶好の機会だ。2022年にはカタールが中東初のW杯を開催しており、サウジアラビアはライバルとの差を埋めるためにもW杯招致が重要だった。しかし、サウジアラビアには大きな壁がある。表現の自由の抑圧、女性の権利制限、同性愛の非容認など、人権問題への国際的な非難が根強い。特に2018年のジャマル・カショギ殺害事件は、サウジアラビアの評判を大きく傷つけた。ワシントン・ポストのコラムニストだったカショギは、トルコのサウジアラビア総領事館内で殺害され、サウジ政府への疑惑が高まった。
スポーツウォッシング批判とFIFAの対応
欧米メディアは、サウジアラビアがスポーツを使って負のイメージを浄化しようとしている「スポーツウォッシング」だと批判している。しかし、FIFAはこうした批判を跳ね返し、サウジアラビアの2034年W杯開催を支持した。FIFA会長インファンティーノはサウジアラビアと親密な関係を築いており、同国のスポーツ投資を評価している。サウジアラビアは他国が真似できない別の道を進み、オイルマネーで国際スポーツ組織を動かす力を手に入れた。2034年W杯の開催権が事実上サウジアラビアに決定したことは、同国のスポーツ戦略の成功を示す一方で、人権問題をめぐる議論をさらに激化させる可能性がある。



