サウジアラビアのオイルマネーは、国際サッカー連盟(FIFA)をも動かすようになった。同国は2034年のFIFAワールドカップ開催権を事実上独占し、その背景にはFIFA会長との「特別な関係」や国家戦略「サウジビジョン2030」に基づく「スポーツ地政学」がある。スポーツライターの木崎伸也氏が著書『サッカーと地政学』で明かした驚愕の真相とは。
国家アピールの最高の舞台としてのW杯
現代サッカーは、ピッチの上だけでは語れない。W杯招致をめぐる各国の駆け引き、スター選手の移籍、FIFAの腐敗と癒着、オイルマネーによるイメージ・ロンダリングなど、サッカーは今や「スポーツ」の枠を超え、国家戦略や経済、安全保障とも結びつく“世界政治の縮図”となっている。サウジアラビアはその最たる例だ。
サウジの「スポーツ地政学」戦略
サウジアラビアは世界で最もスポーツを政治に利用している国の一つである。転機となったのは2016年に立ち上げた政府プログラム「サウジビジョン2030」だ。サウジアラビアは世界有数の産油国だが、石油が実質GDPの約40%を占め、依存度が極めて高い。そこで政府は石油依存を減らすため、経済、スポーツ、教育、芸術などの分野で新たな産業を興す国家プロジェクトを開始した。
このプロジェクトの中心にいるのが、ムハンマド・ビン・サルマーン(MBS)皇太子兼首相である。MBS皇太子は政府系ファンド「Public Investment Fund」(PIF)を通じて世界中の企業や資産に投資すると同時に、スポーツへの投資を国家戦略の中核に据えた。クリスティアーノ・ロナウドをはじめとする世界的スター選手の獲得もその一環だ。
FIFA会長に「急接近」
サウジアラビアがW杯開催権を獲得する上で鍵となったのが、FIFA会長ジャンニ・インファンティーノとの関係構築である。サウジはFIFA会長に急接近し、同国が主催する国際大会やイベントに招待するなどして親密な関係を築いた。インファンティーノ会長もサウジのスポーツ投資を積極的に評価し、同国のW杯招致を後押ししたとされる。
FIFA評議会が下した“驚きの決定”
2034年W杯の開催地決定プロセスは異例の展開を見せた。通常、W杯開催地は複数の立候補国による投票で決まるが、サウジアラビア以外に有力な立候補国が現れず、事実上の「独占」状態となった。FIFA評議会は2023年10月、2034年大会の開催地をサウジアラビアに決定する方針を承認。これはサウジの強力なロビー活動と、FIFA会長との特別な関係が背景にあると指摘されている。
サウジの露骨な「恩返し」
サウジアラビアはW杯開催権獲得後、FIFAに対して巨額のスポンサーシップや支援を約束したと報じられている。また、サウジのPIFはFIFAの商業パートナーとしても機能し、両者の結びつきはますます強まっている。こうした「恩返し」とも言える動きは、スポーツと政治・経済が密接に結びついたサウジの戦略の一端を示している。
2034年W杯がもたらす影響
2034年W杯のサウジ開催は、同国の国際的なイメージ向上と経済多角化に大きく貢献すると期待されている。一方で、人権問題や労働環境に対する懸念も根強い。サウジ政府はこれらの批判に対応するため、大規模なインフラ整備や社会改革を進めるとしている。サッカーが国家戦略の道具として使われる現実は、今後も続くことになるだろう。



