ロシアとASEAN(東南アジア諸国連合)の関係が急速に深まっている。2026年6月17日から19日にかけて、ロシア中部の都市カザンで開催されたロシア・ASEAN首脳会議では、エネルギー分野での協力強化やデジタル経済、金融分野での連携を盛り込んだ「カザン宣言」が採択された。この動きの背景には、石油・ガスを巡る双方の利害の一致がある。
ASEAN諸国がロシアに接近する理由
ASEAN諸国は従来、中東産の石油やガスに大きく依存してきた。しかし、イラン情勢の緊迫化に端を発するエネルギーショックにより、その脆弱性が露呈。輸入先の多角化を迫られる中で、ロシアが新たな供給源として浮上した。米国による対ロシア制裁の一時的な緩和も、ASEAN諸国がロシアに接近する追い風となったとみられる。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングの主任研究員、土田陽介氏は「ASEAN諸国はエネルギー安全保障の観点から、ロシアとの関係強化を模索している」と指摘する。実際、2023年から2025年の平均で、ロシアのASEAN主要5カ国(インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナム)との貿易額は輸出入合計で約160億ドルに達している。
ロシアの思惑:中国依存からの脱却と国際的威信の維持
供給サイドであるロシアには、大きく二つの狙いがあるとされる。第一に経済安全保障の観点だ。ロシアの石油・ガス輸出は中国への依存度を強めており、その高まりを抑え、輸出先を多角化する上で、ASEAN諸国は有望な需要家となる。
第二に国際政治的な目的がある。ウクライナ戦争を巡り主要国から排除されたロシアだが、ASEANとの友好関係を強調することで、「大国ロシア」の健在ぶりを内外にアピールしたい思惑がある。土田氏は「プーチン大統領は、国際社会で孤立していないどころか、新興国を束ねるリーダーとしての地位は安泰だというメッセージを発信している」と分析する。
中国への牽制と国内向けのメッセージ
さらに、ロシアのASEAN接近には中国に対する牽制の意図も含まれている。経済的に中国にのみ込まれつつあるロシアは、中国と一定の緊張関係を維持しなければ、政治的に“対等”な存在であり続けることは難しい。プーチン大統領はこうした外交手法を通じて、国内の有権者の支持回復も狙っているとみられる。
ロシアの対ASEAN貿易額は、2023年から2025年平均で約160億ドル。この数字は、ロシアにとってASEANが重要な貿易相手国であることを示している。しかし、中国との貿易額(約2000億ドル)と比較すると、その差は歴然としており、ロシアのASEAN依存度はまだ低い。
今後の展望と課題
ロシアとASEANの接近は、エネルギー協力を軸に進展しているが、課題も多い。ASEAN諸国は米国や中国との関係も重視しており、ロシア一辺倒になることはない。また、ロシアのウクライナ戦争の行方や、西側諸国の制裁動向も、両者の関係に影響を与えるだろう。
土田氏は「ロシアにとってASEANは、中国依存から脱却し、国際的な孤立を回避するための重要なパートナーだ。しかし、ASEAN側もロシアとの関係強化が、米中とのバランスを崩さないよう慎重に進める必要がある」と指摘する。
カザン宣言の採択は、ロシアとASEANの関係が新たな段階に入ったことを示す。プーチン大統領が描く「多極化世界」の中で、ASEANがどのような位置づけを得るのか、今後の動向が注目される。



