「よく働いてくれている」と、全方位に音を出せるよう組んだスピーカーを手に話すのは、岡山市北区の蔭凉寺住職、篠原真祐さん(61)。本堂で音楽ライブを開くこと27年で、自ら音響調整を行うことも多い。こだわりのスピーカーを設置した音響の良さが評判を呼び、今では国内外のミュージシャンから出演希望が絶えない県内屈指の“ライブ会場”だ。
音楽好きが高じて本堂でライブ
音楽好きの父(先代住職)がタンゴを流す家庭で育ち、中学の頃からYMOなどのテクノポップにはまった。シンセサイザーを購入し、多重録音にのめり込んだ。写真にも夢中になるなどアート全般への関心が高まり、東京芸術大学を受験するが、2年続けて不合格に。寺を継ぐため京都市の花園大学に進学し、寺に住み込みながら仏教を学んだ。
卒業後に修行した京都・南禅寺では、音楽や陶芸の展示、ファッションショーなどのイベントが開かれていた。「かつて大陸の文化が最初に入ってくるのは寺で、トレンドの発信地だった。立派な建物を使わない手はない」と、実家の寺を文化発信の拠点にすることを思い描き始めた。
試行錯誤の末にたどり着いた音響
副住職として岡山に戻り、1999年に開いた最初のライブでは、インドの楽器「シタール」の奏者を招いた。70人以上が集まり、盛況を博したが、プロに頼んだ音響にはもう一つ満足できなかった。
「CDの方が音が良いというのではだめだ。生音の良さがそのまま伝わらなければ」。中古のスピーカーやミキサーを買い集め、老舗ライブハウスにも助言を求めた。試行錯誤の末、異なる向きのスピーカーをあちこちに置くことで、本堂のどこからでも音が自然に聞こえるようにした。「築300年以上の木造なので変な共鳴が起きず、出過ぎた音は自然に抜けていく」と、元々の環境も強みとしている。
国内外のミュージシャンが集う“ライブ会場”
年数本だったライブは徐々に増え、多い時には年500本ほどの出演希望が来た。ただ、年100本程度が限界で、断らざるを得ないこともしばしばあるという。
これまでに国内外の著名な音楽家らが出演。ピアニストのオマール・ソーサさん(キューバ)や、英国での単独公演を開催するシンガー・ソングライターの青葉市子さんもその一人だ。出演者からは「今までで一番良い音」と評価され、ライブ録音がCD発売されたこともある。
「やめないで」の言葉で続けたライブ
住職になったのは2008年。本業ではないライブと寺の運営の両立は楽ではない。ライブを始めて20年がたった頃にやめることも考えたが、長女から「やめないでほしい」と言われた。「私がアホなことをわいわいやってるのが楽しそうだったんでしょう」。できるかぎり続けることにした。
「音楽には落ち込んだ人を救ったり、人を束ねたりする力がある」。音の魅力に取りつかれた住職は、今日も巨大なミキサーを操りながら、演奏を見守っている。
篠原さんは岡山市生まれ。1632年に創建された蔭凉寺の15代目住職で、独学で学んだ音響技術を買われ、神戸市のライブハウスの音響設計を手がけたことがある。写真家としての一面もあり、記事掲載のライブ写真も自ら撮影した。



