ピアニストで作曲家の阪田知樹が「フランツ・リスト国際ピアノ・コンクール優勝から10年」「デビュー15周年」の旗を掲げて公演を行っている。7月には神奈川フィルが委嘱した「エドガー・アラン・ポーの詩による『夜想曲-断片』女声と管弦楽のための」を自身の指揮で初演した。
演奏・作曲・指揮を並行する珍しい音楽家
19世紀の音楽家のようにピアノ演奏と作曲、指揮活動を並行して続けている。現代ではこういう音楽家のあり方はとても珍しい。阪田は「必然的に自発的に自分はそういう方向に向かっています。自然にその道を歩んでいきたい、と思っています」と話した。
ウィーン古典派の権威に師事
阪田は1993年、名古屋市生まれ、横浜市育ち。東京芸術大学付属音楽高校から同大を経て、ドイツのハノーファー音楽演劇大学、同大学院で学んだ。イタリアのコモ湖国際ピアノアカデミーでも研鑽を積んでいる。イェルク・デームスやフリードリヒ・グルダとともに「ウィーン三羽烏」と言われたパウル・バドゥラ=スコダに16歳から師事した。バドゥラ=スコダはウィーン古典派の権威で、モーツァルトの楽譜の校訂を行っている。
「バドゥラ=スコダというともっぱらモーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトというレパートリーを思い浮かべると思います。私も当然、ベートーヴェンやモーツァルトの主要なソナタや協奏曲、ブラームスのソナタなどを彼の下で勉強しました。バドゥラ=スコダと一見結びつかないですけど、実は彼は昔からリストを弾いており、リストの『ピアノ協奏曲第1番』や『巡礼の年』、『ハンガリー狂詩曲』を教わりました」と話す。
聴衆、審査員が総立ちで拍手
今年没後140年のリストは、「ピアノの魔術師」と形容され、どんな作品でも初見で演奏できたという。手が大きく、自身が高度な演奏技術を持つピアニストだったため作品もテクニックを必要とするものが多い。ベートーヴェンの交響曲のピアノのための編曲やオペラのパラフレーズ(元の作品のメロディを使った編曲)でも知られる。
「私が初めてリストの作品を演奏したのは13歳のころです。リストの音楽が最初から分かっていたわけではありません。最初に取り組んだのは、先生から渡された『バッハの名による幻想曲とフーガ』でした。ベートーヴェン、モーツァルト、ショパン、シューマン、シューベルトと当時弾いていた作曲家と比べてなかなかすっと入ってこないからこそ、より研究したいと思いました。今も楽譜を探して調べたり、弾いたりしています」
2016年のリスト国際ピアノ・コンクール優勝は、アジア人男性ピアニストとして初めてだった。セミファイナルで「ノルマの回想」を弾き終わった際、審査員がスタンディングオベーションで演奏を称えたという逸話を残した。
「尊敬するラザール・ベルマンらが出ているコンクールに参加することは重要な目標でした。コンクールの審査員団はクン=ウー・パイク、カツァリスら現役のピアニスト、作曲家のクルターグらでした。聴衆がすることはありますが、審査員がスタンディングオベーションしてくれ私も驚きました」
約30曲を作曲、自ら指揮・演奏
モーツァルトやベートーヴェンはもちろん、19世紀までの作曲家は自分の作品は自分で演奏して披露した。20世紀に入ってもショスタコーヴィチは1927年の第1回ショパン国際ピアノ・コンクールに出場するほどのピアノの名手だった。作曲と演奏が分業化し、現在は作曲をしない専業のピアニストが圧倒的に多い。
「作品は約30曲あります。6歳ぐらいのとき、寝ていたら頭に浮かんだ曲があって、母に五線紙で曲を書きたいと言いました。自発的に曲を書くようになりました。昔から作曲と演奏は一緒と思っていました。バッハやベートーヴェン、どの音楽家を見ても、自分が書いた曲を発表するときには自分で指揮をしたり演奏で参加したりしてきました。ブラームスのように、あまり演奏家というイメージがない作曲家ですらそうです。長い歴史から見れば、分業化されるようになったのはごく最近です。1900年以降ぐらいの話といっても差し支えないかもしれません。音楽家としての原点に立ち返り、音楽家の本来の姿って何だろうと考えます。そうあるべきだと思います」
リストのような音楽家を理想に
阪田は「コンプリート・ミュージシャン」という言葉で、自分の目指す音楽家像を説明した。日本語で言えば、「完璧な音楽家」だろうか。たとえばリストは名曲をたくさん残し、すぐれた演奏家で、さらに教師としてピアニストを多く育て、また社会貢献にも熱心だった。
「英語の表現でコンプリート・ミュージシャンという言葉があります。ピアニストであったり作曲家であったり、それでいてオーケストラの指揮、教育者でもある、音楽に関することすべてに秀でていて、各分野で一流の成果を残す、という方々がいます。たとえばリスト。そういった音楽家になることが自分の理想です」と話した。
リサイタルは11月10日、東京オペラシティコンサートホール。プログラムはバッハ(F.リスト編曲)「オルガンのための幻想曲とフーガ、リスト「ピアノ・ソナタロ短調」、「ベッリーニの歌劇『ノルマ』の回想」、他。11月15日、大阪・住友生命いずみホール。11月21日、群馬交響楽団で新作初演、高崎芸術劇場、他。



