ピティナ特級グランプリに東大卒の24歳・西山響貴さん 音大以外の音楽家増加
ピティナ特級GPに東大卒24歳 音大以外の音楽家増加

全日本ピアノ指導者協会(ピティナ)が主催するピティナ・ピアノコンペティションの最上位クラス「特級」のファイナルが8月21日、東京・赤坂のサントリーホールで開かれ、西山響貴さん(24)がグランプリに輝いた。西山さんは東京大学文学部を卒業し、現在は桐朋学園大学院大学1年に在学中。「将来は自分が一番いい形で音楽にかかわれれば」と話し、ピアニストになるかどうかは思案中だという。

ショパンの青春の音楽をみずみずしく演奏

ピティナ・ピアノコンペティションは1977年から開催され、今年で第50回を迎えた。未就学児のA2級から小学4年生以下のB級、6年生以下のC級など、成人までを対象とした11段階の部門とデュオ部門がある。今年の予選参加は2万6193組。特級のエントリーは122人で、書類選考や予備審査を経て1次予選は62人、セミファイナルは6人、ファイナルは4人で争われた。

西山さんはセミファイナルでモーツァルトのピアノソナタ第10番、ショパンのピアノソナタ第2番「葬送」、グリーグの抒情小品集より「郷愁」「春に寄す」などを演奏。ファイナルではショパンのピアノ協奏曲第2番を披露し、20歳ごろのショパンの青春の音楽をみずみずしく丁寧に奏でた。セミファイナル、ファイナルとも審査員11人の中で最大の得票でグランプリを獲得した。西山さんがプロのオーケストラと共演し協奏曲を演奏したのは初めてだという。

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「音楽の塊のような演奏」と審査員長

銀賞はベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番を演奏した山崎夢叶さん(東京芸術大学4年)、銅賞・聴衆賞はチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番を演奏した沢田蒼梧さん(名古屋大学医学部卒)、入選はラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を演奏した三井柚乃さん(昭和音楽大学附属ピアノアートアカデミー)。共演は太田弦指揮の日本フィルが務めた。

武田真理・審査員長は「今回はものすごくレベルの高いコンクールでした。どうやって順位をつけたらよいか悩むぐらいでした。西山さんの演奏は音楽の塊のように感じました。ピアニストになる人です。演奏家は人の前で弾かないといけません。コンクールを通して育てられるのです」と講評した。

東大から芸術学へ、ヴァレリーの言葉を借りて思索

西山さんは東京都西東京市出身で、5歳からピアノを始めた。特級には2023年から4年連続で参加しており、これまでは3次予選止まりだった。「受賞したことはうれしい。途中、集中力が切れて音をはずしたところがあり、悔しく思いました。手がかりがほしいと特級に挑戦してきました。特級を受けてうまくいかないと、審査員の先生にいただいた講評を何とか吸収して、自分なりに成長していると思いました。大学までは勉強と両立してきましたが、今年から大学院に入り、2年間ピアノだけをやろうと思いました。これからも音楽のために生きていけたらと思います」と喜びを語った。

西山さんは都立武蔵高校から東京大学理科一類に入学。文学部に移り、美学芸術学専修課程を卒業した。卒業論文のテーマはフランスの詩人、小説家、評論家のポール・ヴァレリー。「音楽大学に行くと音楽だけになってしまいます。学ぶことも面白かったのです。選択肢を残しました。いざ入学してみると、周りは呼吸をするように数学ができる人ばかり。私はそこまで得意ではなかった。3年で専攻を芸術学に変えました。美学は言葉で考えます。ヴァレリーの言葉を借りながら、音楽とはどういうものか思索しました。学んでいるとき芸術のすばらしさを思い、よりかかわりたいと大学院に進みました。本気でやっている人を見たら何か見つかるかもしれない、と思ったのです」と話す。

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二足のわらじを履く音楽家の増加

東京大学卒のピアニストとしては、角野隼斗さん(31)がいる。ユーチューブでは「Cateen かてぃん」の名で活躍し、開成高校から東大理科一類に入学、同大学院を修了。2018年にピティナ特級でグランプリを獲得し、2021年のショパン国際ピアノコンクールではセミファイナリストとなった。現在は世界各地で活動している。

今回3位に入った沢田さんは小児科医でありながらピアニストとして活動。セミファイナルまで進んだ石山和暉さんは東京大学医学部5年生だ。西山さんも角野さんも、大学のピアノサークルの草分け的存在である「東京大学ピアノの会」のメンバーだった。

近年、音楽大学を卒業せず、高い学歴を持ち、医者などとの二足のわらじを履く音楽家が目立つ。音楽史的には二足のわらじを履くのは作曲家に見られ、19世紀後半のロシア5人組のボロディンが「だったん人の踊り」などで有名だが、本職は優れた化学者で医師だった。

学生時代に「東京大学ピアノの会」に所属していた日本大学芸術学部教授で音楽評論家の髙久暁氏は「現在はピアノの演奏技術習得のメソッドも改善され、10代前半までに基礎的・専門的なピアノの演奏技術を一通り身に着けて、東大なり医学部に入るといった人は増えたでしょう。日本の場合は昔とは価値観が変化して、社会や大学や親たちが『二足のわらじ』を積極的に評価するようになったこと、コンクールなど目立つ場で演奏を披露できる機会が多くなったことが大きいように思います。また、音楽の才能があったとしても芸大や音大を目指す必要はなく、むしろ目指さない方がよいといった考え方も当然になりました」と指摘する。

ピティナ・ピアノコンペティション入賞者記念コンサートの特級ガラコンサート2026は2027年3月7日にJ:COM浦安音楽ホールで開催され、特級ファイナリストが出演する。コンペティション50回記念の歴代特級グランプリによる特別コンサートは同3月21日、第一生命ホールで行われる。