谷桃子バレエ団、新作「シンデレラ」で全4公演満員 赤野芹奈が主演デビュー
谷桃子バレエ団新作「シンデレラ」全4公演満員

谷桃子バレエ団の10年ぶりとなる全幕バレエ新作公演「シンデレラ」が8月9日から11日まで新国立劇場オペラパレスで開かれ、全4公演が満員となった。サプライズ満載のドラマチックな舞台に観客は大喜びした。3年前まで「新国立やKバレエを落ちた人」が集まっていた弱小団体が、今や「最もチケットが取れないバレエ団」に成長した。

ユーチューブ動画で人気爆発、10年ぶりの全幕新作

当欄は2023年7月と24年2月に谷バレエ団を取り上げた。初回は、バレエ団の裏側を見せる動画を始める決断をした理由を高部尚子芸術監督に聞いた。プロがバレエだけで生活できない日本のバレエ界を変えたいという熱意があった。2回目では、彼らの果敢な挑戦と人気が拡大するさまを紹介した。その後も、実績あるダンサーの入団や豪華スタジオに本拠地を移転するなど朗報が相次いでいる。

ユーチューブチャンネルを開くと「給料制→週5バイト」「限界」といった衝撃的なサムネイルは見当たらず、「米倉涼子参戦」「ケガして踊る…」「完璧を求めるな」など団の充実や舞台への熱意が感じられるものばかりだ。

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バレエの全幕作品の新制作は、数多くの出演者やスタッフの人件費に加え、舞台装置や大量の衣装などを新調するために莫大な資金を要する。久々の新制作を高部監督が決断したのは、ようやく体制が整ったという自信もあったのだろう。作品は長年構想を温めていたプロコフィエフ作曲の「シンデレラ」。団として初めて新国立劇場のオペラパレスで公演を行った。

赤野芹奈が全幕初主演、群馬から通い続けた努力家

8月11日の昼の部を観劇した。公演は大蝶々役の米倉涼子さん、王子役のボリショイ・バレエ団の千野円句さん、新国立劇場バレエ団の李明賢さんら豪華ゲストが話題を呼んだが、その回は団員が主体のため、バレエ団の実力が分かると思った。シンデレラ役は赤野芹奈さん。昨年10月に入団したばかりで、動画では「群馬の新星」として取り上げられている。

母親の献身的なサポートを受けて群馬から2時間以上かけてレッスンに通い続けた努力家が、20歳で全幕初主演に挑んだ。

高部監督は「魂の継承と心の解放」というテーマを伝えるために大胆に物語を作り変えた。「継承」とはシンデレラと両親の間のもの。高部版では、両親が転生した大蝶々とバッタ男爵というオリジナルキャラクターが活躍する。「解放」はシンデレラが王子の心に施すもの。二人の内面を掘り下げ、心の軌跡をくっきりと見せた。

サプライズ満載の舞台構成と演技

プロローグではシンデレラと王子の幼い頃の出会いを描いた映像を大スクリーンで映し出した。少女は母から小さな命の貴さを学び虫たちと仲良し、少年は蝶を捕らえて虫かごに入れる。しかし少女の優しさに感動して少年は蝶を逃がす。そこにはその後の名場面の伏線が満載されていた。

シンデレラはピンク色のワンピースで登場した。高部版では、シンデレラは母と死別しているが貿易商の娘で裕福。継母と二人の義姉は、長旅で留守がちの父が娘を一人にしないよう迎え入れたという設定だ。しかし父親が海で事故死し、継母と義姉が豹変。継母に灰をかけられたシンデレラが早変わりし、あっという間におなじみの灰色の服になった。

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てんとう虫やトンボなどかわいらしい虫たちが壁面の絵から続々と現れるサプライズもあった。バッタ男爵と大蝶々、つまり転生した両親も現れ、シンデレラを励まし、舞踏会に行けるよう着飾るのを手伝った。この日の大蝶々は永橋あゆみさん。体のラインは優雅で、包み込むような腕の動きに温かさがにじむ。バッタ男爵役は中野吉章さん。登場するや宙乗りを披露し、軽やかな動きで舞台を弾ませていた。

王子の引きこもりと心の解放、赤野の華

第2幕の舞踏会では王子が入場して華麗なジャンプを決めると、そそくさと舞台隅の虫かご状の小部屋に引きこもる。彼は人と心を通わすのが苦手という設定。シンデレラが到着すると、王子の心の解放のドラマが始まる。一緒に踊るうちに心が満たされるが、0時になると彼女はいなくなる。王子は一念発起して彼女を探す世界旅行に出る。演じた森脇崇行さんは終始上品な物腰で、目線や息づかいを丁寧にコントロールして王子の心の変化を表現した。

継母と二人の義姉は男性が務めた。ダンス教師とのレッスンの場面で義姉たちはトウシューズを履き、よろよろ立ち上がるとぎこちなく膝を伸ばしたり脚を外側に開いたりしてバレエの難しさをさりげなく見せた。姉が檜山和久さん、妹が三木雄馬さん。二人ともプリンシパルだけにちゃめっ気たっぷりの踊りがうまい。継母役は東京バレエ団の大プリンシパルだった高岸直樹さん。コミカルさ以上に風格が際立っていた。

赤野さんは、継母たちが舞踏会に出かけた後、ホウキ相手に踊る場面で流れるような回転技を披露。ホウキを手放すと床にバタリと倒れ、放心した姿から孤独の悲しみが伝わった。舞踏会に向かう準備が整った後にはグランフェッテを堂々と披露し、歓喜をほとばしらせた。赤野さんには華があり、エネルギーに満ちて感情も豊か。はつらつと踊ると舞台が明るくなった。共演者はみんな先輩ばかりで、頑張る新人を支えたいという思いが輝きを与えていた。