キャリア・教育 「身を売る女性はすでに人権を失っている」朝ドラ『風、薫る』りんのモデル"大関和"が参加した「廃娼運動」の裏側
公開日時:2026/06/17 08:00
(写真:天空のジュピター / PIXTA)
真山 知幸 伝記作家、偉人研究家、芸術修士(MFA)
「芸娼妓解放令」の以後も公娼は増え続けた
NHKの連続テレビ小説「風、薫る」は、日本の看護婦のパイオニアとなった大関和(おおぜき ちか)と鈴木雅(すずき まさ)を主人公のモチーフとしている。時代は明治。医療の現場は男性のもので、女性が医療分野の仕事に就くことへの理解がまだなかった頃のことである。看護の世界に飛び込んだ二人はいかにして、日本近代看護の礎を築いたのだろうか。著述家で偉人研究家の真山知幸氏が解説する。
NHKの連続テレビ小説「風、薫る」の第10週「疾風に勁草を」第49話では、りん(演:見上愛)や直美(演:上坂樹里)らは外科実習を終えて、内科実習へ移ることになった。
「切ったはったの患者はめったに来ないから、のんびりやってください」
帝都医科大学附属病院内科教授・木村文平からそう声をかけられた直後に、心中未遂の男女が運び込まれて来て、病院は対応に追われることに……。
男性は死亡するも、女性・夕凪(演:村上穂乃佳)は一命をとりとめる。しかし、夕凪は娼婦で「また地獄に戻んなきゃなんない」と吐露。生き残ったことを悔やむほど、つらい日々を送ってきたと、りんと直美は知る。
そんな中、女郎屋の主人・権田が病院に押しかけて来て「店の損害と入院費をそっくり稼いで返してもらう」とすぐさま夕凪を連れ帰ろうとする。看病婦のヨシ(演:明星真由美)が機転をきかせ言葉巧みに帰らせたが、夕凪を取り巻く厳しい現実は変わらない。
直美が親身になって夕凪の看病を続ける一方で、りんは廃娼運動の記事を掲載していた新聞社を訪ねて……というふうに物語が展開された。
娼妓・芸妓のように身を売る女性はすでに人権を失っている
廃娼運動とは、女性の人権擁護の観点から、公娼制度を廃止しようとする社会運動のこと。明治5(1872)年に「芸娼妓解放令」が明治政府から出されたものの、女性の人権を守ろうとした施策では全くなく、芸者や遊女たちの苦しい立場は変わらなかった。なぜそんなことになったのだろうか。
「芸娼妓解放令」を出したきっかけは、マリア・ルス号事件という国際的な奴隷貿易問題であった。この事件により、日本人女性が海外に売られていた実態が明るみに出たため、明治政府は国際的な批判を避けるために解放令を出した。しかし、それはあくまで表面的なもので、実際には公娼制度は温存され、むしろ増加の一途をたどった。
大関和も女性の地位向上をめざす社会運動に携わった。彼女は看護婦としてだけでなく、廃娼運動にも積極的に関わり、女性の人権を守るために尽力した。当時、娼妓や芸妓として身を売る女性は「すでに人権を失っている」とされ、社会から蔑まれていた。大関和はそんな状況を変えるべく、廃娼運動に参加し、女性が人間として尊重される社会を目指したのである。
朝ドラ『風、薫る』では、りんが廃娼運動に関わることで、女性の社会進出や人権問題に目覚めていく様子が描かれている。これは、大関和の実人生に基づいたストーリーであり、当時の女性たちが直面した厳しい現実と、それに立ち向かった勇気を伝えている。



