伊沢優花さん、駅ナカ酒蔵で日本酒文化の魅力を発信「酒造りの面白さを感じて」
伊沢優花さん、駅ナカ酒蔵で日本酒文化の魅力を発信

JR仙台駅の駅ナカで小さな酒蔵を経営する「勝花蔵(しょうかぐら)」代表の伊沢優花さん(33)は、自由な発想で酒造りをしている。海外向けに日本酒の自家醸造キットを開発したり、透明なタンクで醸造の様子を見せたりと、酒の新たな可能性を切り開いている。

「罰ゲーム」のような扱いにショック

江戸時代から続く、仙台市の老舗酒蔵の家に生まれた。蔵人さんに遊んでもらい、まるで大きな家族の中で過ごしているようだった。蔵は酒造りの場だけでなく、地域の人が集うコミュニティーの中心的役割を果たしている。そんなことを自然と感じながら育った。

日本酒の存在が当たり前すぎて強い思い入れはなかったが、大学進学を機に東京で生活を始めて目にした光景に衝撃を受けた。飲み会で日本酒が罰ゲームの道具のように扱われている……。若い世代に日本酒が愛される存在でなかったことが、家業にそれなりの誇りを持っていた伊沢さんにはショックだった。この経験をきっかけに日本酒について学び始め、特に醸造技術の論文をたくさん読んだ。日本酒は単なる飲み物ではなく、社会や人の営みに深く関わっている。歴史や文化、宗教など様々な分野とつながっていると知り、面白いと感じた。

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海外向けに自家醸造キット開発

21歳の時には、米ニューヨークに留学。実家の酒造会社の日本酒を持って現地のレストランを突撃訪問し、売り込みに奔走した。やがて海外展開を担うようになった。ニューヨークで出会ったシェフに「自分でお酒を造ってみたい」と相談されたのをきっかけに、日本酒自家醸造キットを開発した。純米吟醸の仕込みに必要な材料と道具、指南書などをセットにしたものだ。日本では酒類製造免許を持たずに酒を造ることは禁止されているが、海外では趣味として家で酒造りをする人も多い。造ってもらうことで、日本の酒文化を理解してもらえると思った。今では会員登録は8000人以上、22か国にユーザーがいる。

「酒造り」多くの人に見てほしい

蔵の中でしか見られない「酒造り」を多くの人に見てもらいたいと、2024年にはJR仙台駅の駅ナカに小さな酒蔵「SENDAI STATION BREWERY Fermenteria(ファーメンテリア)」をオープンした。発酵や醸造の様子を店の外からも見えるよう、壁際に全面ガラス張りの冷蔵庫を設置し、8リットルの小さな透明タンクをたくさん並べている。日本酒の製造技術をベースに果物など副原料を加えた「クラフトサケ」や、ノンアルコールの発酵ドリンクもタンクで造り、販売している。ここではできたてのお酒を味わえる。地元の農家さんが「これでお酒を造ってほしい」と野菜や果物を持ってくることもあるという。

酒はなくても生きていける、生活に不必要なものかもしれない。でも人類ははるか昔から酒造りに情熱を注ぎ、文化や芸術を発展させてきた。多くの人に、日本の酒文化の魅力を感じてもらい、おいしさを味わってほしいと語る。

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【取材後記】記者はお酒が好きで、日本酒もよく飲む。「お酒を造っている女性ってどんな人だろう」という興味から伊沢さんに取材をお願いした。お酒への愛をこれでもかと語る姿、飽くなき探究心と行動力に圧倒された。世界各国にいる日本酒自家醸造キットの愛用者とはオンラインで頻繁にコミュニケーションを取り、造り方をアドバイスしている。日本酒を飲みたければ製品を買った方が早い。ただ愛用者は、時間をかけ丹精込めて酒造りをすることを楽しんでいる。そこに酒文化の精神的豊かさを感じると笑顔で話していた。実はお酒が弱いという伊沢さん。小さい頃から「蔵元に大事なのは量が飲めることでなく、味がわかること」と言われてきた。創作的な酒造りに取り組み、多くの人に酒文化を伝えていくのを楽しみにしている。