社会人になってキャンプで訪れた富士山に魅了され、山梨県富士吉田市で飲食店「かもめ食堂」とゲストハウス「Backpacker’s House Kamome」を開いてから1年が過ぎた。店主の依田沙央理さん(35)は、世界文化遺産・富士山の構成資産の一つである北口本宮冨士浅間神社近くの古民家を改装した店に、外国人を中心に多くの観光客が訪れる人気ぶりについて「開店前の想像をはるかに超えている。自分のやりたかったことを実現できてうれしい」と笑顔を見せる。
依田さんは東京都調布市で生まれ、千葉県松戸市で育った。大学を卒業後、千葉県内の小学校で教員として9年間働いたが、限られた時間の中で新しいことにも挑戦したいと考えるようになった。学生時代から興味があった外国人と関わる仕事をするため、まずは世界を自分の目で見に行こうと教員を辞めた。
世界36か国を巡る旅
依田さんはバックパッカーとしてケニアやトルコ、スリランカ、エクアドルなど36か国を訪れた。行く先々で出会った人たちから聞いた都市や観光地を巡り、現地でホテルや飛行機のチケットを取って移動する日々を8か月間続けた。
その中で、生きてきた環境や文化はそれぞれ違うのに、相手を思う優しさは世界共通で存在していることを学んだ。
モロッコで受けた優しさ
特に印象的だったのがモロッコでの出来事だ。目的地とは逆方向の電車に乗ってしまい、聞いたことのない名前の駅で降りることになった。ホームで途方に暮れていると、一組の若い夫婦に声をかけられた。事情を説明すると「家に泊まっていきなよ」と言われ、食事や寝床を用意してもらい、翌日は車で駅まで送ってもらった。
ほかにも多くの困難があったが、人々の優しさのおかげで無事に帰国できた。力を貸してくれた人たちの連絡先は誰一人分からないが、形はどうであれ、次は自分が多くの人の力になりたいと考えるようになった。
富士吉田で開業
依田さんは2024年5月に富士吉田市へ移住。店を開くため、富士河口湖町内の小学校で非常勤講師を務めて資金をためながら、空いた時間には飲食店と外国人向けの宿泊施設でアルバイトとして経験を積んだ。料理の盛りつけ方や客との接し方を学び、自身が店を出す時のことをイメージしながら働いた。
オープンから1年が過ぎ、店の評判は口コミなどで広がって高い人気を誇っている。客の8割ほどは外国人で、ほかの観光客や地元住民との交流も楽しめる明るい雰囲気が店内には漂う。
「これからも人々への感謝を伝えながら、地域と世界をつなぐ架け橋になっていきたい」と依田さんは話す。



