生のフルーツから作る自家製シロップをたっぷり使ったかき氷で知られる、神奈川県・湘南の人気店「埜庵」。真冬でも行列が絶えないこの店が、かき入れ時の夏に店を閉めるという苦渋の決断を下した。きっかけは、娘の教育費だった。
常連客を大切にする経営
店主の石附さんは、新しい価値観を否定するわけではなく、自分の店の常連客と向き合い続けた結果、この決断に至った。埜庵にはベビーカーを押す家族連れから高校生、大学生、ひとり客、親子、カップルまで幅広い客が訪れ、10年以上通う常連も少なくない。
「僕らはもうすでに目の前にお客さまがいる。その人たちの気持ちを無視していきなり3000円のかき氷を作ったら、今いるお客さまを全員捨てなきゃいけない。それは僕がやるべきことじゃないと思うのです。氷づくりから入っているのでなおさら。"かき氷"と呼ぶ限り、素材の頂点は氷、と言うのが埜庵のかき氷の原点です」
同店は「氷をおいしく食べる、シンプルなかき氷」というスタンスを貫いている。
コロナ禍の大打撃
2020年からのコロナ禍では、並んでいただく手法が取れなくなり、大きな痛手を受けた。石附さんは「本当に大変でした」と振り返る。全身全霊で取り組んできた店や仕事が「不要不急」とされたことや、悪質な嫌がらせも受けた。時短協力金は夜営業の店向けで、経営は逼迫。外出自粛で娯楽がなく、店を開ければ近所の人だけで行列ができ、いたしかたなく閉めた。
追い打ちをかけたのが催事の中止。当時、埜庵は夏を百貨店の催事に振り切る営業スタイルで、年間売上の柱が消えた。店も閉め催事もなくなった2020年の売上は前年の4割に落ち込み、「倒産寸前まで追い込まれて、さすがに途方に暮れてしまいました」と石附さん。
それでも焦って手を出さず、直感的に何もしない選択をした。「あの頃飲食業のテイクアウトが流行ったけど、かき氷は持ち帰りも通販もできないからね」と耐え抜いた。
コロナ後の決断
コロナ禍が落ち着き店を再開しても、埜庵は変わらず同じスタンスを貫き続けた。しかし、娘の教育費をきっかけに、これまでの営業スタイルを見直す決断を迫られた。夏の繁忙期に店を閉めるという選択は、常連客を大切にする同店ならではの苦渋の決断だった。



