SNS上で「ワンボウルレシピ」が大きな注目を集めている。ボウル一つに春雨やサラダなどの具材を乗せ、電子レンジで加熱するだけ。包丁やまな板を極力使わず、洗い物も最小限で済む手軽さが支持され、流行りの麻辣春雨からサラダまで多彩なレシピが登場している。こうしたワンボウルレシピをはじめ、様々なレシピを発表している森永乳業に、その背景を取材した。
共働き1,300万世帯時代、レシピ依頼の9割が「時短」
電通が2025年9月に実施した「食生活に関する生活者調査2025」によれば、料理をすることを面倒に感じる人は64%にのぼり、2022年の調査開始時から11ポイント増加した。完全に自炊で済ませる人は前年から5.4ポイント減少し、代わりに「半分は出来合い」という食卓が増えている。こうした「料理離れ」が進む生活者が取り入れるレシピの傾向は、極力調理工程を省き、洗い物も少なくできるもの。SNSでは「ワンボウルレシピ」や「ワンパンレシピ」として、ボウルやフライパンを活用したレシピが広がりを見せている。
総務省「労働力調査」では、共働き世帯はこの10年で100万世帯以上増え、1,300万世帯規模に達している。森永乳業マーケティング本部の渡邉奈央子氏は、こうした社会構造の変化がレシピニーズの背景にあると指摘する。「時短だったり健康感といったところが背景にあると思っていて、その裏には共働き世帯の増加があります。男女ともに仕事と家事を両立しなければならない。生活する時間に余裕がないという状況がベースにあると考えています」と渡邉氏は語る。
年間150件以上もの商品レシピを開発している同社研究本部フードソリューション研究所の櫻田伸之氏も、レシピ作りの傾向として「“時短・簡便”が8〜9割を占めている」と実情を話す。「僕たちは生活者の方に自社商品をうまく活用いただくためのレシピを開発していますが、マーケティング部門などから受ける依頼は、8〜9割が“時短・簡便”をテーマとしています。もちろん、レシピを見て料理される方が求めているのは手軽さだけではなく、手間をかけて料理を作りたいという場合もあると思っていますが、タイパが重視されるトレンドがあるので、洗い物や調理工程そのものを減らしたいという声も多く聞かれるのが現状です」と櫻田氏は説明する。
「料理をしなくなった」暮らしにフィット? ビフィズス菌の性質が生む非加熱レシピ
この「料理をしたくない」というマインドと、意外な形で噛み合っているのが、ビヒダスシリーズに使われるビフィズス菌BB536の性質だ。ビフィズス菌は酸や酸素だけでなく熱にも弱く、高温での加熱調理には向かない。渡邉氏は「ビフィズス菌は一般的に酸や酸素にそれほど強くなく、熱にも弱いので、摂取したい方にはあまり加熱をお勧めしていません。50度を超えると徐々に死滅し始めてしまうので、レシピを依頼するときも、あまり熱を加えていないレシピの方がビフィズス菌の摂取には向いていると考え、お願いすることが多いです」と説明する。
つまり、ビフィズス菌の機能を活かすレシピは必然的に非加熱・省工程になる。それが結果として、「火を使いたくない」「洗い物を増やしたくない」という生活者のニーズと自然に一致している。手軽さだけでなく、ヨーグルトそのものの「守備範囲の広さ」も、レシピの幅を後押ししている。櫻田氏は「ヨーグルトは発酵食品なのでとても複雑な味わいなんです。原材料はただの生乳と乳製品というシンプルなものなのに、味わいはとても複雑で、その分どんなソースやタレにも相性がいい。レシピのなかで、調味料として使われる頻度も増えてきました。日本にはヨーグルトのほかにも発酵文化がたくさんありますから、馴染みやすいと思います」と述べる。
実際、麻辣湯のような辛味の強いレシピにもヨーグルトは違和感なく溶け込んでいる。ヨーグルトのほどよい酸味がスパイスと調和し、辛さの中にもさっぱりとした後味が楽しめる。ヨーグルトには辛味を和らげる役割もあるため、市販の麻辣湯が辛くて食べられない人にも向いているという。
炭水化物だけになりがちな夏の食事、幅を広げる「ボウル」レシピ
夏は食欲が落ち、そうめんやそばなど冷たくスルスル食べられる食事に落ち着きがち。森永乳業は「夏バテを回避するためにも、たんぱく質や食物繊維をしっかりとれる食事をとってほしい」と、ボウルを活用する3つのレシピを紹介してくれた。「グリークヨーグルトボウル」は、「水切りしてもいいですが、水切りの加減を調節すれば、いろいろな固さを楽しめます」(櫻田氏)。「腸活!ヨーグルト仕立ての汁なし麻辣春雨」は、「花椒や豆板醤の辛さとヨーグルトを合わせたレシピです。ヨーグルトの程よい酸味がスパイスと調和して、辛さの中にもさっぱりとした後味が楽しめます」(櫻田氏)。渡邉氏も「本当に忙しい時にも作りやすいレシピだと思います」と付け加える。「水菜とこんにゃくのサラダ」は、「味噌、醤油、砂糖、すりごまというシンプルな組み合わせで、間違いのない味わいに仕上がります」(櫻田氏)という。
夏場の栄養面について、渡邉氏は注意を促す。「炭水化物に偏った食事をとり続けると、タンパク質やビタミン、ミネラルが不足しがちになり、疲労や体調不良につながる可能性があります」。高タンパクなギリシャヨーグルトは、そうした偏りを補う選択肢の一つになるという。
料理という行為そのものから距離を置き始めた生活者に、企業としてどこまで寄り添えるのかが今後の鍵になるのかもしれない。櫻田氏は「僕たちは、いろんなレシピを準備しているので、自分が取れていない栄養を、それぞれ見つけて取ってもらえたら嬉しいです」と語る。「加熱しない」という制約から生まれたレシピ群は、料理をしたくない時代の静かな受け皿になろうとしている。



