高知の洋食店コックドール創業75年、91歳女将が現役でホールに立つ
高知の洋食店コックドール創業75年、91歳女将が現役でホールに立つ

高知市帯屋町の商店街にある洋食店「コックドール」が今年、創業75年を迎えた。地元の洋食のパイオニア的存在で、戦後の歴史と共に歩み、訪れる人々の思い出に刻み込まれてきた。

「女主人であり、ウェートレス」という窪内佳子さん(91)は卒寿を過ぎた今も、昼と夜、毎日ホールに立つ。ショートヘア姿は何十年も変わらない。

伝統の味を守り続ける

客が途切れることのない店内は白と青を基調に調えられ、1階の2部屋には計12テーブル。看板メニューは「特製ハヤシライスセット」(税込み1980円)だ。牛のスジやバラ肉、骨などをずんどうで幾日も煮込み、デミグラスソースを仕上げる。

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ライスと一緒に口へ入れると、トマトの酸味とふんだんな肉やタマネギの風味が広がる。特別だけれど、慣れ親しんだ味。佳子さんは「本当にオーソドックス。ここは基本、伝統的なお料理ばっかりです」と話す。夫の清さんは、店の料理を「日本人が作って、日本人が食べる洋食だ」と話していたという。

戦後から続く歴史と家族の絆

創業は1951年。戦中から戦後の荒廃で「ぺんぺん草が生えていた」という土地で、復員した清さんが始めた。佳子さんは結婚後に働き始めたが、客に「ありがとうございます」と声を掛けることすら恥ずかしく、柱の陰からのぞいていたら「借りてきた猫か」と客にからかわれた。

61年、次男の雅人さん(64)が生まれたのを機に家庭へ入ろうと思ったが、清さんに「男が客席に出るわけにいかん。舞台装置は俺がするから、舞台で働くのはお前や」と説得された。

休みの日も出てくる清さんと「仕事が嫌だと思ったことは一度もない」という佳子さんの二人三脚。「朝、すぐ身支度ができるように」と整えた佳子さんのショートヘアは、店のトレードマークになった。

亡き夫との約束、そして未来へ

清さんは2004年7月、病気で亡くなった。その一月ほど前、自宅で佳子さんと2人の時に「今年のよさこい祭りは、よう見ないだろう」と話していたという。「生命の火が消えるってことは分かっていたんでしょうかね」

佳子さんは「長いこと、お客さまが私を育ててくださったと思っています」と語る。雅人さん夫婦と孫が仕切ってくれる店に、いつ出勤できなくなるかも分からない。でも「お母さん、もう来なくていいよ」と言われるまでは働き続けようと思っている。

山本一力さんが語る思い出の味

コックドールは戦後を生き抜く人々に「ハレの日」を提供してきた。高知市出身の直木賞作家、山本一力さん(78)もその一人で「高知に戻ったら1回は食べないと帰った気にならない」と話す。

「そんなに慌てて食べいでも、だれも取りやせんきに」。小学5年の秋、妹と共に母親に連れられて店を訪れた日の記憶をエッセー集「味憶めぐり」に記している。

「ハヤシライス」という言葉も知らなかった少年時代。「タマネギと一緒に食べると、肉と旨味を競い合うかのような、未知の味覚が楽しめた」。今も同店のハヤシライスを食べるたび、遠い昔の思い出も味わっているという。

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