昨年末、秋田内陸縦貫鉄道の秋田内陸線に乗車した。以前も全区間を乗り通したことはあるが、今回は途中で1泊しながらじっくりと楽しむ予定だ。最大の目当ては、同線が運行するレストラン列車「走る農家レストラン ごっつお玉手箱列車」である。
「走る農家レストラン」の正体
一般的なレストラン列車といえば、コース料理が一皿ずつ提供され、ナイフとフォークで食べるイメージかもしれない。しかし、この列車の正式名称は「走る農家レストラン ごっつお玉手箱列車」。「ごっつお」は秋田弁で「ごちそう」を意味するが、「走る農家」とは一体どういうことか。
実際に乗車してみると、そのコンセプトは想像以上にユニークで、非常に楽しい体験だった。列車内にはなんと6人のシェフが乗り込み、それぞれが地元の食材を活かした料理を提供する。乗客は各メニューに付けられた「名前」と産地が書かれたカードを見ながら、まるで農家レストランを訪れたかのような感覚で食事を楽しめる。
すべてのメニューに「名前」が書かれている
提供される料理の一品一品には、食材の生産者や料理名が明記されている。例えば、「佐藤さんの大根を使ったおでん」や「鈴木農園の卵で作った玉子焼き」といった具合だ。これにより、乗客は誰が作った食材かを意識しながら味わうことができ、食事がより一層特別なものになる。
筆者が乗車した際には、秋田県北秋田市出身のシェフが調理した「きりたんぽ鍋」や「比内地鶏のスープ」などが提供された。各料理は地元の生産者と直接連携しており、季節ごとにメニューが変わるという。
食べ終わるのがもったいない
料理の味はもちろん、見た目にもこだわっており、まるで芸術作品のようだ。特に「玉手箱」の名にふさわしい、小さな箱に詰められた前菜の盛り合わせは、食べ終わるのがもったいないほど美しかった。乗客からは「こんなに美味しいものを列車で食べられるなんて思わなかった」「秋田の魅力を再発見できた」といった声が聞かれた。
また、車窓からは秋田内陸線ならではの田園風景が広がり、食事と景色の両方を楽しめるのも魅力だ。列車はゆっくりと走るため、のんびりとした時間が流れる。
「熊対策」はどうする?
秋田内陸線は山間部を走るため、熊の出没が懸念される。しかし、列車内での食事中に熊に遭遇するリスクは極めて低い。実際、運行会社は「列車内は安全です。熊が線路に現れた場合も、警笛を鳴らして追い払うか、徐行して通過します」と説明している。むしろ、車窓から熊を見かけることがあるかもしれないが、それもまた自然豊かな地域ならではの体験だ。
レストラン列車は予約も「のんびり」
この「ごっつお玉手箱列車」は完全予約制で、運行日も限られている。予約は電話またはインターネットで受け付けており、乗車希望日の1ヶ月前から予約可能だ。ただし、人気が高いため、早めの予約が推奨される。料金は大人1名あたり1万5000円(税込)で、乗車券と食事代が含まれている。所要時間は約2時間半で、途中駅での観光時間も設けられている。
筆者も事前に予約を試みたが、何度か電話がつながらず、のんびりとした対応に戸惑った。しかし、それが秋田の「のんびり」した雰囲気を象徴しているようで、むしろ好印象だった。予約が取れた時の喜びはひとしおで、乗車当日を心待ちにした。
秋田内陸縦貫鉄道の「ごっつお玉手箱列車」は、地元の食材とシェフの技、そして秋田の風景を一度に楽しめる贅沢な体験だ。鉄道ファンはもちろん、食に興味がある人にもぜひおすすめしたい。



