「パーカーもボディーバッグもだめ」「何を着ろと?」――中高年男性の服装をめぐる論争がネット上で繰り広げられている。一見無難な服装が「イオンモールおじさん」と揶揄される現象の背景には、世代間の「概念のギャップ」が存在する。本稿では、服装心理学者らの研究を基に、この理不尽な批判のメカニズムを解き明かす。
なぜ「無難な服装」が叩かれるのか
中高年男性が選ぶ「無難な服装」――例えば、襟付きシャツにチノパン、あるいはスニーカーといったスタイルは、本人たちには清潔感があり適切だと思われている。しかし、若い世代の目には「ダサい」「古臭い」と映ることが多い。この認識のズレは、認知心理学でいう「スキーマ(Schema)」の不一致によって説明できる。
スキーマとは、過去の経験から形成された知識の枠組みのこと。人は無意識にスキーマを使って服装を判断する。トウィッグ氏(※1)は「服装が慣習に沿って着用されている場合はあまり注目されないが、慣習外に使用されると反応を引き起こす」と指摘する。中高年男性の服装が若者のスキーマから外れると、「なんかダサい」という瞬時の反応が生まれるのだ。
「若者スキーマに合わせれば解決」ではない
しかし、問題は単純ではない。中高年男性が若者のファッションを真似すれば解決するかというと、そうとは限らない。ここに論争の本質的な複雑さがある。
理由①:体型・骨格の変化
同じ服でも、着用者の体型によって見え方は大きく変わる。加齢とともに体型・骨格が変化するのは自然であり、それに応じて服の印象も変わる。現在の若者ファッションのトレンドであるオーバーサイズシルエットは、スリムな若者の体型を前提に設計されている。中高年男性が同じシルエットを選んでも、デザイナーが意図した「こなれた雰囲気」にはならない場合が多い。
実際、ネットニュースのコメント欄には、《中年オヤジがオーバーサイズを着るのは体型に合わずアンバランスになる。若い子ですら姿勢が悪いと着こなせていない》という指摘も見られた。
理由②:顔と服装の「ミスマッチ」
服装の印象は、着用者の顔との組み合わせで決まる。服装心理学者のニール・へスター氏ら(※2)は「服装が個人に与える印象は、それ単体では理解できない。同じジーンズでも、一緒に着るもの、着ている人の顔や体型、場所や時代によって異なる印象をもたらす」と論じる。
若者向けのカジュアルウェアは、若々しい顔つきとセットで成立するようにデザインされていることが多い。加齢で肌質・輪郭・目元が変化した中高年男性の顔に同じスタイルを合わせると、意図とは異なる印象が生まれる。若者スキーマをそのまま移植することの限界がここにある。
「おじさんのスキーマ」は若者の服装規範とは本質的に異なる
中高年男性の服装が若者のスキーマと一致しないのは、世代ごとに形成された服装規範が根本的に異なるからだ。中高年世代は「清潔感」「無難さ」「格式」を重視する傾向があるが、若者世代は「個性」「トレンド」「リラックス感」を重視する。この価値観の違いが、お互いの服装を理解できない溝を生んでいる。
結論として、中高年男性の服装が叩かれる背景には、単なる好みの違いではなく、認知的なスキーマの不一致がある。そして、体型や顔の変化など生物学的要因も絡むため、簡単に解決できない。お互いのスキーマを理解し、歩み寄ることが求められる。



