歌舞伎俳優の尾上右近(34)が23歳から続けてきた自主公演「研の會(けんのかい)」のファイナル公演が、9月5、6の両日、大阪・国立文楽劇場で開かれる。東京・歌舞伎座で主演するほどの人気花形役者となった右近の歴史が詰まった公演で、3演目を一人で演じ、踊り切る。
「結果が付いてこない」焦りから始めた自主公演
20代前半は努力しても「結果が付いてこない時期が続いた」という。その焦りを抱えて始めたのが「研の會」だ。スタート時に「10回やる」と公言。「必死のパッチだった」と苦笑するが、徐々に規模も大きくなり、「『10回で終わるなんてもったいない』と言ってもらえる公演になった」と喜びをかみしめる。
ファイナル公演の幕開けに選んだのは、明治の義太夫節の巨星、三代目竹本大隅太夫の生涯を描く「藝阿呆(げいあほう)」(作=安藤鶴夫)。タイトル通り、死に物狂いで芸の道を突き進んだ男の激しくもはかない一代記。昭和35年に、八代目竹本綱太夫と三味線の十代目竹澤弥七の名演奏でラジオ放送用に創作された義太夫作品で、感銘を受けた十七代目中村勘三郎が54年に舞踊化した。右近は家にあったこの音源に子供の頃から親しみ、十八代目勘三郎の舞台も強く印象に残っていた。
「藝阿呆」に生演奏で挑む
「藝阿呆って、できないですか」。5年ほど前、文楽の竹本織太夫と、日本舞踊尾上流四代家元の尾上菊之丞との私的な食事会の席で投げかけた言葉が、ようやく舞台の上で実現する。過去の上演は音源を使っていたが、三味線音楽「清元」の太夫でもある右近は「僕たちは生演奏の価値を信じている。決定版だからと音源を使うのは自己否定になる」と初めて生演奏での上演を選択。文楽座から、十代目綱太夫の襲名が決まっている織太夫と、弥七の弟子である竹澤団七の出演がかなった。過去映像はあえて見ず、振り付けは菊之丞に依頼。令和版の新たな「藝阿呆」を作り上げる。
公演のラストには、特別な思い入れのある舞踊の大曲「春興鏡獅子(しゅんきょうかがみじし)」を選んだ。3歳のときに曽祖父、六代目尾上菊五郎が踊る映像を見たことが歌舞伎の世界を志すきっかけになった作品で、第1回研の會では実力不足を承知で初挑戦。昨年4月には夢だった歌舞伎座での初演がかなった。
「間引く」演技への転換と未来への展望
歌舞伎座での初演は自信になる一方で、「やり過ぎていた部分があった。僕は伝わっているかが不安で足していっちゃうタイプ。演技過剰といわれるゆえんで、そこから自分を解放しないといけないと思った」と語る。これからは「『間引く』とか、動けるけれどあえて『やらない』というところにいきたい」と右近。芸の階段を上るために踏み出す一歩が今回の鏡獅子だ。
研の會は一区切りとなるが、来年以降も自身の公演は「やります!」と即答。「役者として、スタッフさんを含めた『チーム右近』として一流を目指したい。そのための新たな公演に期待してください」と爽やかに笑った。ほかに映画「国宝」にも登場した舞踊「鷺娘」も上演される。問い合わせは尾上右近事務所(info@onoeukon.info)。



