ジャン=リュック・ゴダールの『勝手にしやがれ』製作の舞台裏を描いた映画『ヌーヴェルヴァーグ』(公開中、配給:AMG エンタテインメント)の監督リチャード・リンクレイターのインタビューとメイキング写真4点が公開された。本作は1959年、ゴダールの長編デビュー作であり、ヌーヴェルヴァーグ(新しい波)と呼ばれる革新的な映画運動の記念碑的作品となった『勝手にしやがれ』の製作過程を、当時のフランス映画界の映画作家たちとの活気ある交流とともに描く青春物語である。
リンクレイター監督が語る、本作への思いとキャスティング
学生時代にヌーヴェルヴァーグに夢中になり、その自由な撮り方と姿勢に大きな影響を受けたリンクレイターは、この企画を10年以上前から温めてきたという。本作は『勝手にしやがれ』(1960)のスタイルに倣い、アカデミー比率(1:1.37)の白黒作品に仕上げられ、全編ほぼフランス語という初挑戦となった。キャスティングは、監督作『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』(2016)に出演したゾーイ・ドゥイッチ以外、ほぼ無名の俳優で構成されている。リンクレイターは「観客に“1959年の若者たちと一緒に映画を作っている感覚”を味わわせるためには既視感のないキャスティングが不可欠だった」と語る。
主人公ジャン=リュック・ゴダール役には、写真家やモデルとして活動していたギヨーム・マルベックを起用。リンクレイターは、その外見だけでなく、本人が持つ存在感が決め手だったと明かす。「ギヨームが入ってきたとき、これが初めての演技だと思う人はいなかったでしょう。映画の中で演技をしているだけでなく、実際に監督までしているように見えました。現場全体に対して、自然に権威を持っていたんです」。また、ジャン=ポール・ベルモンド役のオーブリー・デュラン、ジーン・セバーグ役のゾーイ・ドゥイッチについても、「似ている」と評される理由は単なる外見の再現ではないと強調。「それは、彼らの演技力とパーソナリティの力です。彼らは本当に優れた俳優で、常に全力を尽くしてくれました。一緒に仕事ができて、とても幸運でした」と語る。
1959年の映画製作現場を再現するためのこだわり
本作は時代を描く作品であると同時に、まるでその時代に実際に撮影された映画のような独特の質感を備えている。リンクレイターは、企画を考え始めた段階から、完成した映画のルックが頭の中に見えていたという。「それは、1959年に作られた映画でした。あの時代に撮影された映画には、手段が限られていたからこそ生まれた、独特のルックとスタイルがあります。撮影方法やアングルも含めて、この映画の中に、当時の映画へ入れたら違和感が生まれるようなショットを、一つも作りたくありませんでした」。そのため、1960年以降に発展したカメラワークや撮影技法を、意識的に頭から消していった。「彼らがやったであろう方法で撮影しました。クレーンもドリーもなかったので、バルコニーから撮ったり、手持ちで撮影したり、屋外をわずかに露出オーバーにしたりして、あのルックを実現したんです」。
一方で、ゴダールの演出そのものを模倣する意図はなかったと語る。「私たちが作っているのはゴダール映画ではありません。ジャンプカットもそれほど多くない。あの時代に、別の映画作家が作った一本、というのがコンセプトでした。フランスのヌーヴェルヴァーグの世界で皆がたむろしているような、“たむろ映画”のルックと感触を目指したんです」。
若い観客へ向けたメッセージとヌーヴェルヴァーグの精神
最後に、ヌーヴェルヴァーグについて詳しくない若い観客にも、気後れせず本作を楽しんでほしいと語った。「この映画を作るとき、若い人たちが、理解できない引用や、知らない人物の名前に威圧されないでほしいと思っていました。若い人たちが集まって何かを作るという物語そのものは、とてもシンプルです。この映画について“分からない”ことなどありません」。そして、映画をきっかけに当時の人物や作品へ興味を持ってもらえたなら、「とても感激する」と続ける。「映画作家や、映画作家を目指している人にとって、彼らが私に影響を与えたように、何十年が経っても、そのメッセージは次の世代へ受け継がれていきます」。
リンクレイターにとって、ヌーヴェルヴァーグの精神は過去のものではない。「私にとってヌーヴェルヴァーグとは、個人的な映画、自己表現、友人を集めて、とにかく“やる”ことを意味します。それは絶えることがありません。革命は続いているんです。常に、どこかで起きている」。本作で描きたかったのは、映画作りに伴う不安や危うさだけでなく、その根底にある純粋な楽しさだったという。「映画を作ることは、少し怖く、少し不安定かもしれない。でも、ただ楽しいんだということを示したかった。特に、初めての映画を作るときの、あの高揚感を捉えようとしました」。続けて、「もしこの映画が誰かを奮い立たせ、自分自身をその状況に置き、自分たちの映画を実現するきっかけになるのなら、それはとても良いメッセージだと思います」と締めくくった。
メイキング写真と著名人コメントも公開
あわせて公開されたメイキング写真4点には、監督、キャスト、スタッフが一堂に会した集合ショットをはじめ、カチンコを手に撮影へ臨む姿や、当時の映画雑誌編集部を再現したセット、パリの街中で大掛かりな撮影を行う様子が収められている。モノクロームの画面からは、1959年の映画製作現場を現代に蘇らせた、本作ならではの熱気と遊び心が伝わってくる。また、山下敦弘ら著名人8名のコメントが公式Webサイトで公開されている。
ストーリー概要と出演者・スタッフ
フランソワ・トリュフォーの長編デビュー作『大人は判ってくれない』がカンヌ国際映画祭で監督賞を受賞した1959年。その夏、批評誌『カイエ・デュ・シネマ』で執筆活動をしていたジャン=リュック・ゴダールは、ジャン=ポール・ベルモンドとアメリカの若手女優ジーン・セバーグを主演に起用した念願の初長編映画『勝手にしやがれ』に着手する。ところがゲリラ撮影や即興演出を好むゴダールの型破りなやり方に、周囲は困惑を隠せない。それでも映画作りの夢と情熱を共有した現場は熱気に満ちあふれ、誰ひとり完成形を想像しえないまま、のちに伝説となるクライマックスの撮影へと突き進んでいく。
出演者:ジャン=リュック・ゴダール役:ギヨーム・マルベック、ジーン・セバーグ役:ゾーイ・ドゥイッチ、ジャン=ポール・ベルモンド役:オーブリー・デュラン、ラウル・クタール役:マチュー・パンシナ。スタッフ:監督:リチャード・リンクレイター、脚本:ホリー・ジェント、ヴィンス・パルモ、プロデューサー:ミシェル&ローラン・ペタン。配給:AMG エンタテインメント。



