旧公家・冷泉家と山科家、宮廷文化を今に伝える取り組みを語る
旧公家・冷泉家と山科家、宮廷文化を今に伝える取り組み

平安京の中心・京都御所(京都市上京区)周辺にはかつて、公家屋敷が並んでいた。朝廷に仕えた公家は明治維新以降、多くが東京に移ったが、現在も京都に残り、宮廷文化を伝承する人たちがいる。旧公家で、歌道宗家の冷泉家後嗣・冷泉渚さん(45)と衣紋道山科流若宗家の山科言親さん(31)に取り組みを聞いた。

冷泉家、典籍や古文書の公開に意欲

冷泉家は平安~鎌倉期の歌人・藤原俊成、定家親子を祖とし、京都御所北側の公家屋敷「冷泉家住宅」で定家筆の日記「明月記」など国宝5件、重要文化財50件を含む数万点の典籍、古文書を守り、和歌(うた)会や年中行事を続ける。

冷泉さんは「子どもの頃、定家卿の750年遠忌が二尊院(同市右京区)でありました。最前列に座り、定家卿に近い立場を自覚しました。子孫として『恥ずかしいことをしたらあかん』とふるまいには気をつけていました」と振り返る。

2022年に典籍や古文書を管理する「冷泉家時雨亭文庫」の学芸課長に就任し、6棟ある蔵の整理と調査、収蔵品の修理を続けている。課題は、もっと公開することだ。「修理したものは展覧会などでご覧いただき、文化の発展に寄与しなければと考えています」と話す。

和歌の継承と現代への橋渡し

京都府内などの高校にもゲストの先生として訪問している。授業では正座で墨をすり、和歌を筆で書いてもらう。正座は初めての生徒さんもいて、カルチャーショックが大きいようだ。「梅にウグイス」「紅葉に鹿」といった和歌が伝えてきた季節の言葉の組み合わせも通じにくくなっているという。

和歌を決まった字数で作り、リズムを付けて詠んだのは覚えやすくするため。冷泉家でも声に出して詠む「披講」を続けている。「独特の抑揚に御所での話し方を残していると思います。古典文学は『京都弁』です」と説明する。

「御所で育まれた文化は日本文化の源流です。流れをくむ公家の文化も憧れの対象で、目指されるものでありたい。きちんと継承していかなければという気持ちは大きいです」と語る。明治天皇が東京に行かれたとき、冷泉家は留守居役を仰せつかった。「和歌の家として伝統と文化を守りながら、『まだ帰ってきはらへんやろか』と京都でずっと待っているんです」と話す。

山科家、装束の着付けで千年の美意識を継承

山科家は平安末期~鎌倉初期の公卿・藤原実教から始まり、所領の「山科」が名字となった。宮廷装束を調え、着付ける「衣紋」と雅楽の笙(しょう)を継承してきた。13代の日記「言継(ときつぐ)卿記」(重要文化財)は戦国時代研究の史料として高く評価される。

山科さんは「山科家は私で30代目になります。家業の『衣紋』は今の言葉で言うとファッションコーディネーター。宮中では季節や儀式、位や年齢に応じて装束を着分け、そうした知識と技術を代々、伝えてきました」と話す。天皇の即位に伴う儀式「昭和の御大礼」は曽祖父、「平成の御大礼」は祖父、「令和の御大礼」では父と私も着付けを担当した。

戦前は伯爵だった祖父から、昭和天皇にお目にかかった話や華族の歴史を聞いて育った。本格的に衣紋を学んだのは学生時代から。大学院では天皇の装束と文様について研究し、現在は勅祭で装束を着付け、門弟さんにも教えている。

寛永行幸400年と今後の発信

後水尾天皇が徳川将軍家の招きで二条城を訪れた「寛永行幸」から今年で400年を記念し、12月6日に京都市で行われる再現行列の装束も監修している。先祖も行列のお供をしており、「節目に関わることに不思議な巡り合わせを感じます」と語る。

公家の文化が長く続いたのは、「一朝一夕にまねたり、奪ったりできない文化的な役割を担っていたからです。蹴鞠はスポーツ、雅楽は音楽、装束はファッション。人間が豊かさを感じるものを網羅し、精神的な領域まで高めて発展させてきました」と説明する。

平安時代には四季に応じた装束の配色「かさね色目」が生まれた。山科家には200種類以上の組み合わせと銘が伝わる。「1000年前の美意識が凝縮されたタイムカプセル。装束の展示や着装の実演を通じて、背景にある宮廷文化を発信していきたいと考えています」と話す。

同志社大に「宮廷文化研究センター」

同志社大(京都市上京区)は2021年に「宮廷文化研究センター」を発足させ、公家の文化の研究や成果の発表に力を入れている。今出川キャンパスは冷泉家に隣接し、かつては山科家もあり、近くには摂政や関白に就いた「五摂家」の一つ、二条家などの屋敷も並んでいた。立地を生かし、発掘や各家の文書、和歌や装束の研究を進める。

研究員には冷泉さん、山科さんや二条家の30代当主も名を連ねる。今年度は冷泉さん、山科さんらが討論するフォーラムも開いた。センター長の福田智子教授(和歌文学)は「公家の文化は、現代を生きる私たちにも影響を与えている。国際社会を生きる上で、自分の背景を読み解く重要な手がかりとなる」と話す。