佐賀市出身の作家、上村裕香さん(25)が、初の長編小説『海の底に雨は降らない』(幻冬舎)を刊行した。ヤングケアラーだった主人公が、物語を紡ぐことで自分を取り戻そうとする姿を通して、物語が持つ「ケア」や「回復」の力を描く作品だ。
主人公は母への自殺ほう助罪に問われた20歳の女性
北九州市で暮らす20歳の光莉は、小学生の頃から介護していた母への自殺ほう助の罪に問われ、執行猶予付きの有罪判決を受ける。上京後に出会った女性作家・日比谷は、難病の父との暮らしを描いた私小説がベストセラーになっており、「俯瞰して書くことで、やっと現実っていう大きな物語に対抗できんねん」と、光莉に小説を書くことを勧める。
上村さんは、ヤングケアラーの少女を主人公にした短編「救われてんじゃねえよ」で、2022年に「女による女のためのR-18文学賞」で大賞に輝いてデビューした。同作は、難病の母を介護した上村さんの実体験が織り交ぜられていたこともあり、大きな反響を呼んだ。
「本物のヤングケアラーではない」という後ろめたさ
だがその裏で、「あなたは本物のヤングケアラーではない」と言われることを恐れる気持ちや後ろめたさがあったと明かす。母は薬の効果で症状が落ち着いた時期もあり、その頃のケアは家事の手伝いや介助が主だった。「私がヤングケアラーという言葉を背負っていいのか」との思いがあったという。
その葛藤から、日比谷の人物造形が浮かび上がった。関西弁で明るいキャラクターだが、〈青春をぜんぶ犠牲にして介護〉という社会のヤングケアラー像と自身のギャップに悩む。そんな日比谷に、光莉は言う。「全員に、ちゃんと、かわいそうって思われないと、本物じゃないの?」



