向田邦子文庫、収集資料1万3000点 「あの夏」から45年
向田邦子文庫、収集資料1万3000点 45年

実践女子大学の渋谷キャンパス(東京都渋谷区)にある「向田邦子文庫」の公開展示室では、白を基調とした空間に旧型の留守番電話が置かれた机が一つ置かれ、壁の棚には本が並ぶ。国内外の小説をはじめ、「ぐい呑み楽し」「パリの料亭(れすとらん)」「映画百年史」など、骨董や料理、旅行、映画にわたるタイトルからは、持ち主の興味の幅広さが感じられる。

収集資料は約1万3000点

前身の実践女子専門学校の卒業生で、昭和56年に航空機事故のため51歳で亡くなった直木賞作家・向田邦子さんの蔵書と、万年筆など遺品の一部を展示している。文庫は、ご遺族から寄贈された約1300冊の蔵書と遺品をもとに、昭和62年に日野キャンパス(東京都日野市)の図書館に開設された。平成26年のキャンパスの渋谷展開に伴って移転し、現在の展示室が設けられた。

文庫は向田さんに関する多様な資料の収集を続けており、これまでに集めた資料は、著作単行本152点のほか、雑誌の記事や関係文献、シナリオなど約1万3000点にのぼるという。図書館事務部次長の伊藤民雄さん(59)は「著作は中国語、韓国語、英語など幅広く出版されているので、海外の情報にも気をつけています。台湾で出版されたことは知っていたのですが、部数が少なく、入手までに10年近くかかった作品もあります」と話す。貴重な資料は室温20~22℃、湿度50~55%に保たれた地下の書庫で保管されている。

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作品に触れる機会が少ない世代へ

映画雑誌の編集者をはじめ、脚本家、エッセイスト、小説家として活躍した向田さん。日本の原風景のような昭和の家族の姿や、男女や親子、あるいは男同士や女同士の感情の機微を鮮やかに描いた作品には今もファンが多い。一方で「活字離れ」「テレビ離れ」といわれるなか、作品に触れる機会が少ない世代も存在する。伊藤さんは「向田さんに関連する資料が一つの場所に集まること、つまりコレクションの総体が一つの価値を持っていると考えています」と文庫の意義を語る。

展示室には愛用の原稿用紙も置かれている。向田さんは脚本家のジェームス三木さんとの対談で「わたくしはね、書いてて、ピッ(原稿用紙をめくって切る)。そのピッピッが速いと、のってくるんです。一つの音楽みたいになってくる」と語っている(「お茶をどうぞ 向田邦子対談集」)。

おすすめの一編「字のないはがき」

伊藤さんのおすすめは「一冊」ではなく「一編」。向田さんのエッセー集「眠る盃」などに収められた作品で、戦時中、山梨県に学童疎開した向田さんの幼い妹と心配する父親ら家族の姿と愛情を描いている。中高校生の教科書に取り上げられているほか、「字のないはがき」(小学館)として、角田光代さんの文、西加奈子さんの絵で絵本としても出版されている。伊藤さんは「従来はテレビドラマや小説を通じて、向田さんのファンになる方が多かったと思いますが、若い方は、こうした教科書や絵本を通じて向田さんにふれていく。そういう作品だと思います」と話す。文庫本では4ページ足らずの作品だが、伊藤さんは「どの世代にとっても、家族への思いやりや、言葉にしなくても伝わる気持ちの大切さに気付かされるのでは」と語っている。

向田邦子文庫は東京都渋谷区東1の1の49に所在。入室無料、事前予約は不要。開室は月曜から土曜の10時~16時。休室日は日曜、祝日、休校日など。開室カレンダーなど詳細は「実践女子大学・実践女子短期大学部図書館」ホームページ内の「特設サイト」参照。

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