デビュー20年、完結編に込めた思い
作家の万城目学さん(50)が、2006年のデビュー作『鴨川ホルモー』から続く3部作の完結編『ホルモー燦燦』(KADOKAWA)を刊行した。異色の青春小説は、20年後の世界で大団円を迎える。
『鴨川ホルモー』は、京都を舞台に小さな「オニ」が乱戦を繰り広げる競技「ホルモー」に青春をかける学生たちを描いた鮮烈なデビュー作。2007年には短編集『ホルモー六景』も刊行された。万城目さんは「(登場人物は)一生懸命で切実。バカバカしいけれど、バカにしきれない何かがあったんでしょう」と振り返る。
3作目を書かなかった理由
しかし、作家は長年3作目を書かなかった。「3部作の映画でも、だいたい3作目はいまいち盛り上がらない。検討の余地もないと思っていた」と語る。その後、奈良や大阪を舞台に奇想とユーモアの世界を広げ、ファンから続編を期待する声があっても「へらへら笑って逃げていた」という。
心境が変化したのは2年前。デビュー20周年が迫る中で、「『鴨川ホルモー』から20年たったらどうなるのか。これならいける」と考え、完結編を書き下ろしで準備した。
『ホルモー燦燦』の内容
『ホルモー燦燦』は、京都で学生たちがホルモーに興じる「鴨川小覇王」、OBたちが東京で学生たちのホルモーに助っ人参戦する「社会人ホルモー」、高校の茶道部を舞台にした「ホルモー喫茶去」の3つの中編を収録。緩やかにつながる構成で、「アホな意地の張り合いをしている学生と、ホルモーが過去のものになった人、これからやるかもしれない世代。現在と過去と未来を描くことで、『ホルモー』が続いていることを表現したかった」と説明する。
独立した作品としても楽しめるが、第1作の表現が伏線として生きてくるなど、シリーズを読んできたファンにはうれしい仕掛けもある。「『鴨川ホルモー』を読んでからの方が面白い。なぜかは言えないんですが」と、ネタバレを嫌う作家は意味深に語った。
執筆の変化と真骨頂
振り返れば、『鴨川ホルモー』の原動力は「自分への怒り、現状へのいらだちだった」という。大学卒業後、20代後半まで作家を目指して小説を書き続けたが、箸にも棒にもかからなかった。「優等生のような話を同じように書いていてもダメ。壊すという強い意志があった」。それが爆発力につながった。
20年たった今、書き方は「慎重になった」。今作は、4か月で書いたデビュー作の3倍の時間をかけた。じっくり考えたおかげで、書き始めると様々な要素がつながって、ストーリーが膨らんでいく。「書いているときは真面目です。ちゃんと面白い話にせな、と思って」。不思議な話を真剣に書く中で、現実とのずれがユーモアを生む。万城目ワールドの真骨頂だ。
30歳でデビュー、50歳の今
30歳でデビューし、今年50歳になった。「ずっとパソコンを見ながら自問自答して……。会社員の20年に比べたら、感覚的には8年か10年ぐらいで、時間の使い方としてはもったいない。でも、(書くのが)好きなんです」と真面目に語ってから、急に照れた。「ちょっと大げさに言いすぎました。そんな格好いいもんじゃない」。
少し斜に構えたユーモア精神と、奇想を地道に積み上げていく姿勢が、唯一無二の物語を生んでいる。万城目さんは1976年生まれ、大阪府出身。『プリンセス・トヨトミ』『とっぴんぱらりの風太郎』など多くのヒット作を手がけ、2024年に『八月の御所グラウンド』で直木賞を受けた。



