最高にクールな中編を三つ揃えた小説集『わたしを庇わないで』(石田夏穂著、集英社、1980円)を、作家の新川帆立が書評した。
三つの物語
「世紀の善人」は、旧態依然とした企業体質の三國造船で働く女性社員・安井が、職場の人々を「サンゾウ」と一括りにして直視せずやり過ごしてきたが、労働組合からの指示で観察するようになり、彼らの「生態」に触れるにつれ絶滅危惧種を保護する飼育員のような気持ちになっていく。サンゾウたちは自らの生態に従って「スクスクと加齢」し、とんでもない事態へと発展する。
「小人二十面相」は、小学校を卒業した望が友人とディズニーランドに行く計画を立てるが、自分の顔を嫌うあまり写真撮影が億劫で乗り気になれない。ところが、写りのいい「奇跡の一枚」の写真を目にしたことで、自意識が振り回され始める。
「わたしを庇わないで」は、タナマル水産の広報部員として働くアヤノが太っているが、他人から「デブ」とそしられたことはない。担当する「食べ歩き」動画に出演し、視聴者から「デブ」とコメントされたことを契機に、明らかにデブである自分に対し「デブ」と言おうとしない人々に反発心を抱くようになる。
現実への冷徹な視線
「コンプライアンスを守りましょう」や「ルッキズムをやめましょう」といったスローガンではどうにもならない現実に冷徹な視線を注ぎ、強固な現実と対峙する主人公を描いている。救いのなさが煮詰まると人は笑うしかないものであり、それゆえどの作品も乾いたユーモアに包まれている。「何を言ったって、現実はこうじゃん」とでもいうような容赦のない書きぶりは、同様の現実に晒されながら生きる人たちに向けた文学からの救済である。
善悪をつけず、ただそこにある現実を描く本作は、現代ハードボイルド小説のフロントラインとしても評価できる。新川帆立は「今年上半期に読んだ小説の中で一番面白かった。あまりに面白かったので、会う人みんなに薦めて回っている」と絶賛している。



