外国人労働者数が過去最多を更新する中、人手不足に悩む外食業界で、外国人スタッフの定着に成功している企業がある。ジンギスカン店「だるま」を展開するDARUMA Company(以下、だるま)だ。
外国人労働者数は過去最多の257万1037人
厚生労働省の調査によると、国内の外国人労働者数は2025年10月末時点で257万1037人と、過去最多を更新した。国別ではベトナムが60万5906人と全体の23.6%を占め、最多となっている。人手不足が続く外食業界では、外国人材をどう集め、いかにして定着させるかが経営課題になっている。
だるまは7月31日、東京・上野区徒町に「東京本店」を開いた。1954年創業の同社にとって、東京では2024年開業の上野区徒町店に続く2店舗目となる。自社で建てた3フロアの店舗で、地下1階には同社初のテーブル席を設けた。
「多様性」の力で人手不足を乗り越える
この東京2店舗を担うエリアマネージャーは、ベトナムから留学生として来日し、学生アルバイトから正社員になった人物だ。この店舗ではベトナムだけでなくネパール、インドネシアからやってきた若い外国人材たちが働く。人手不足にあえぐ外食業界にあって、同社は求人広告に頼ることなく、働いている社員からの紹介を中心に外国人スタッフが集まっている。スタッフが自ら職場を呼びかけていることもあり、職場の定着率は非常に高いという。
なぜ、同社には国境を超えて人が集まるのか。人材の獲得競争が激しさを増す中、中小規模の外食企業が人を集め、定着させるには何が必要なのか。その背景には「土日は1日16回転・フードロスほぼゼロ」という高い収益力に裏打ちされた高待遇と、28年間の教育経験を持つ3代目社長・金有燮(キム・ユソプ)氏が実践する「異色の育成術」があった。
「人がいなくて雇い始めた」多様性の力
1954年の創業以来、だるまの店を切り盛りしてきたのは、創業者の金寛吉子さんをはじめとする女性たちだった。その多くはパート従業員で、金社長の妻が経営を担っていた時期もあるという。この女性たちが、だるまの手切りのマトンと秘伝のタレを作り出して継承。常連客と会話を交わしながら歴史を続けてきた。
そのだるまも、今では外国人材を積極的に採用している。人材の構成が変わったのは、人が採れなくなってきたからだ。金社長も「最初からこうしようと狙ったわけではない。人がいなくて、外国人を雇い始めた」と、外国人雇用に踏み切った経緯を説明する。
最初は「窮余の策」で外国人材を採用したものの、実際に働いてもらうと、想定と違う手応えがあった。金社長は「一緒に働いてみると、皆が驚くほど一生懸命だった。経済的に厳しい事情を抱えている人もいて、皆必死に働いてくれる」と話す。現在、同社の店舗では日本、ベトナム、ネパール、インドネシアの従業員が働く。
こうした変化は、職場の空気にも影響を与えた。以前は従業員同士の軋轢が起こることもあり、雰囲気が悪くなったり、退職につながったりすることがあった。だが留学生が加わって以降、そうしたトラブルがほぼなくなったという。金社長は「生活面で困っている者がいれば互いに手を貸す関係ができ、それが職場全体に広がった」と振り返る。年齢層の異なる従業員の間にも、互いに助け合う関係が生まれているという。
金社長は、多様な人材が集まる職場を日本企業共通の課題として捉えている。
「日本は同質性の高い社会で、いいところもたくさんありますが、違う相手と働くのは苦手な部分もある。人口減少と高齢化が進む中で成長していくためには、どの企業もその課題を直視しなければならなくなります」
だるまは今回の東京本店の開業に合わせて経営理念を更新。「多様性が力」を、経営の根の一つに据えた。人手不足をしのぐために始めた採用が、今や組織作りの前提になっている。
高待遇を支える「土日16回転」 給与と対話で築く離職防止の仕組み
とはいえ、採用にこぎ着けた外国人材にすぐに辞められてしまっては、この組織作りも定着しない。だるまでは、同業他社よりも高い待遇を提示することで、外国人材の定着を支えてきた。金社長は「特に留学生にとっては、これだけの条件を出す店はほかにないはず」と話す。
待遇は採用戦略にも影響を与えた。同社は外国人材向けの求人広告を出していない。外国人従業員が形成するコミュニティーを通じ、働いている本人が友人を連れてくるためだ。
この構造が成り立つ前提には、本業での高い収益力がある。同社は来客状況を見ながら仕入れ量を細かく調整し、できるだけ食材ロスを抑える運営を徹底している。毎日仕入れた在庫を、その日のうちになるべく売り切るような運営を目指しているため、フードロスがほぼ出ない。
基本的に席はカウンターのみだ。土日などのピーク時には「1日16回転」することもあるほど客足が絶えない。もし店の在庫が余ってしまっても、肉は冷凍で数日間持つため、仕入れた肉を廃棄することは、あまりないという。また、1人当たりの客単価が4500円と高い。金社長は「高待遇を維持できるのは売り上げが回っているから」と話す。
待遇と並んでもう一つ、金社長が根に据えているのが、従業員と対話する時間の確保だ。上野区徒町店では週に2〜3回、従業員を集めたミーティングを開く。金社長はこのほかに、従業員と1対1で話す時間も設けている。
全体ミーティングで教材に使うのは、理経研究所が発行する冊子『職場の教養』だ。日ごとに経営や運営に関する読み物が載っており、それを全員で読んだ上でその内容について話し合うという。ビジネスパーソンとしてどう行動すべきかを扱う内容で、金社長は「教訓っぽいと思われることもありますが、大事なことです」と話す。
職場での公用語を日本語にしている点も、社員同士の結び付きの強さにつながっている。東京の2店舗を担当しエリアマネージャーを務めるグエン・ゴック・トゥアンさんは、多国籍の職場が機能する理由を「国籍が違っても、みんな日本語で話します。日本語も上達しますし、仕事だけでなく日本での生活面のこともお互いに共有して、助け合います」と説明する。
働くうちに日本語の力が伸び、見知らぬ日本での生活の相談ができる相手が職場にできる。給与以外に、職場に留まる理由が積み上がっていく構造だ。これが同社のリテンションを強固なものとしている。



