ノンフィクションライターの川口穣氏が、自身の経験をもとに、現在密かに広がる「ご先祖様探しブーム」の実態を取材した。制度改正とデジタル化によって、かつては専門家に依頼しなければ難しかった家系調査が、今では1万円程度の費用とスマートフォンで可能になりつつあるという。
戸籍をたどれば江戸時代の先祖に到達
川口氏は自身のルーツを調べるため、父方25通、母方23通の合計48通の戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍を取得。その結果、一度も聞いたことのなかった高祖父母16人全員の名前と生没年が判明し、6世代前まで一部の名前が明らかになった。養父母を含めると、直系尊属だけで50人以上の新たな名前が浮かび上がった。
最も古い記録は文化6年(1809年)生まれの人物で、これは「明治19年式」と呼ばれる最古の戸籍様式に、高祖父(父の母の母の父)の「祖母」として記載されていた。横浜市役所の職員は「戦前の戸籍は『家』単位で、戸主を筆頭に配偶者、子ども、きょうだい、親、祖父母、時には親戚まで含まれていた。そのため、江戸時代の先祖までたどり着ける可能性がある」と説明する。
9割の人が200年以上遡れる
家系調査を専門とする行政書士の丸山学氏(これまで1000件以上の調査を手掛ける)は、「戸籍の調査だけで160~180年前、江戸後期の先祖まではたどり着ける可能性が高い。筆者のように戸籍だけで200年以上は比較的幸運だが、他の調査を組み合わせれば、9割程度の人は200年以上遡れる。中には名家でなくても1000年遡れる人もいる」と語る。
丸山氏は戸籍調査に加え、土地台帳、歴史文献、墓石調査、本家や菩提寺での聞き取り(過去帳の確認など)を組み合わせ、家族の歴史を紡ぐ。自身のルーツを900年分遡ったことが、この仕事を始めるきっかけだったという。
自ら取り組む人が増加、費用は1系統1万円以内
専門家に依頼せず、自分で先祖探しに挑戦する人も増えている。きっかけは両親の死や墓じまい、子どもからの質問など様々だ。川口氏の場合、明確なきっかけはなかったが、両親が70歳を超え「老い」を感じたことから始めたという。
丸山氏によれば、戸籍をたどるだけなら1系統(父方・母方それぞれ)あたり1万円以内で済む。スマートフォンで戸籍請求の方法を調べ、役所に郵送請求すれば、自宅にいながら全国の戸籍を取得できる。ただし、一部の戸籍は消失や廃棄で入手できないケースもある。
家系調査は「究極の自分探し」
川口氏は「名前も知らなかった先祖が次々と現れる体験は、まさに『究極の自分探し』だ」と述べる。丸山氏も「家系調査は、自分のルーツを知ることで、現在の自分をより深く理解する手助けになる」と強調する。
ブームの背景には、2008年の戸籍法改正やデジタル化の進展がある。以前は戸籍の取得に時間と手間がかかったが、今では郵送やオンラインで簡単に請求できるようになった。また、SNSやブログで調査結果を共有する人も増え、コミュニティが形成されている。
ただし、丸山氏は「誰でも気軽に」とは言えない理由も挙げる。戸籍にはプライバシー情報が含まれており、取得には正当な理由が必要だ。また、調査が進むと養子縁組や再婚など複雑な家族関係に直面することもあり、精神的な負担を感じる人もいるという。



