スマートフォンで液晶画面を撮影すると波のような模様が見えることがある「モアレ(干渉じま)」現象。そのミクロ版が物理学の研究分野として注目を集めている。素材の性質を「角度で操る」という新たな世界が見えてきた。
グラフェンをずらして重ねると
物質・材料研究機構(NIMS)の研究室では、研究員の岩﨑拓哉さんが「グラフェン」と呼ばれる素材の模型を示した。グラフェンは炭素原子が六角形の「蜂の巣構造」に並んだシートで、厚さは原子1個分の0.5ナノメートル(ナノは10億分の1)以下。電子が動き回れて、銅などの金属より電気を通しやすい。
「2枚重ねて、ずらすとモアレ模様が出てきます」。一方を少しずらすと幾何学模様が浮かび上がり、角度を変えると模様はなめらかに変化。網目がぴったり重なっているとモアレは出ないが、少しずらすと大きなモアレが現れ、ずれが大きくなるにつれて細かくなっていく。
「魔法の角度」で超伝導に
模型では模様が変わるだけだが、ミクロの世界で本物のグラフェンをずらすと、素材の性質が大きく変わる。米マサチューセッツ工科大のパブロ・ハリーヨ=エレーロ教授らのグループが2018年に発表した2本の論文で、グラフェンを約1.1度の角度でずらして重ね、零下270度ほどの極低温まで冷やすと、電気抵抗ゼロの超伝導体や、逆に電気を通さない絶縁体になることを実証した。
ずらして重ねる素材の研究は、ツイスト(ねじる)とエレクトロニクス(電子工学)を合わせた「ツイストロニクス」と呼ばれ、一気に広がった。学術論文の無料公開データベース「OpenAlex」によると、18年の二つの論文の引用回数は延べ1万2千回以上。関連論文は19年以降、毎年200~500本発表されている。
組み合わせは無限、可能性を探る
この発見は物理学の世界に衝撃を与えた。素材の性質を研究する「物性物理」では、原子や分子の組み合わせを操作して性質をコントロールしていたが、「重ねる角度」という新しい手法が加わった。グラフェン以外にも原子1個分の厚さのシートを作ることができ、この分野の研究を続ける岩﨑さんは「何を、どの角度で重ねるかによって、もとの素材からは予測できないような性質が生み出される。組み合わせは無限で、どんな性質が見つかるか、何ができるかをみんなが探している」と解説する。



