ホンダが5月に発売した電気自動車(EV)「スーパーワン」は、国内メーカーで競合車のない小型EVの位置づけだ。エンジン車のような音をあえて再現した「ブーストモード」を搭載するなど、遊び心たっぷりに仕上げた。車名には唯一無二の価値を提供するといった思いを込めた。
コンセプトは「FUNなEV」
スーパーワンのコンセプトは「FUN(ファン)なEV」だ。かつて高出力ターボエンジン搭載で、力強い見た目から「ブルドッグ」の愛称で親しまれた1983年発売の小型車「シティ・ターボII」をイメージし、乗って楽しいクルマを意識して開発された。
2025年9月発売の軽自動車EV「N-ONE e:」をベースに、全長や全幅を拡大。満充電時の航続距離は274キロ・メートルと小型EVでは短めだが、通勤や買い物など街乗りや日常の足として使うセカンドカーとしての需要を狙っている。日本の充電規格「CHAdeMO(チャデモ)」に対応しており、約30分で80%まで急速充電できる。
五つのドライブモード
操縦性と快適性のバランスのいい「標準モード」や省エネで航続距離を最大化する「ECONモード」など五つのドライブモードを切り替えられる。特にブーストモードは、最高出力が47キロ・ワットから70キロ・ワットに上がり、パワフルな走りになるだけでなく、4気筒のエンジンと7段変速をイメージしたエンジン音をあえてEVで再現している。
6月下旬、埼玉県内で試乗した。走り出しはEVらしいスムーズで静かな乗り心地だ。重心が低く安定感があり、ホンダの小型車「フィット」よりも全長・全幅が短いため、運転に不慣れな記者でも取り回しがしやすく、住宅街の狭い路地でも難なく走れた。
シートは、スポーツカーのように左右に張り出したサポート部分が体をしっかり支えてくれるため、運転に集中しやすかった。
ブーストモードの体感
ハンドルにある紫色のスイッチを押し、ブーストモードに切り替えると、印象ががらりと変わった。体がシートに押しつけられるような力強さを感じ、出力が上がったことが体感できる。米BOSE(ボーズ)製の音響システムを搭載しており、スピーカーを通じて擬似的なエンジン音が流れ始める。加速していくとギアを切り替えたかのような振動を感じて、速度に合わせてエンジン音も変化していった。
メーターパネルには、疑似的なエンジンの回転数を示す表示もあり、ブーストモードにするとデザインも青から紫に変化。演出も含めてまさに「ホンダらしい唯一無二で、乗って楽しいクルマ」だと実感した。
市場開拓に注目
スーパーワンは7月時点で計1.4万台を受注。税込み約339万円からとコンパクトカーとしては高い価格帯だが、国の補助金130万円を含めると、実質209万円程度になる。軽自動車のEVは補助金が最大58万円で車種によっては200万円前後になるため、実質的な負担額は同程度といえる。
小型EVは、これまで国内では伊フィアットの500eや韓国ヒョンデ(現代自動車)のインスターなどに限られてきた。ホンダらしい「とがった車」で、どこまで市場を開拓できるかが注目されている。
開発責任者に聞く
開発責任者の堀田英智氏にスーパーワンの特徴などを聞いた。
――開発の狙いは。「面白いEV」が作りたかった。EVはエンジン車よりも静かな分、運転中はのっぺりと単調な印象がある。ブーストモードにあえてエンジン車のような音を付けることで、車との一体感を出したかった。ホンダは元々、楽しい、スポーティーな車を扱い、愛用してもらってきた。少しニッチでとがったモデルを出すことで、国内でのEVの普及にもつなげていきたい。
――顧客層は。セカンドカーとしてEVがほしいという人や先進的なEVに興味がある人たちで、主なターゲットは50~60歳代の男性だ。実際、購入者の約70%が50歳代以上で、男性比率も高い。楽しいEVになったので、ぜひ若い人たちにも乗ってもらいたい。



