現代社会では「知識量」が重視されている。情報や知識を多く取り込み、状況に応じて迅速に操作できることが良いとされ、人生やキャリアの成功につながるという考え方がある。情報や知識が氾濫する時代になり、SNSやビジネス広告の世界では次々に流行語やバズワードが生まれては消えていく。日々加速を止めない科学の発達によって更新される知見や技術に対し、私たちは一方でそれらを収穫物として求め、他方でそれらを見過ごすことへの恐怖を感じている。いずれにせよ、情報や知識の大量摂取が常態化しているのが現代生活の特徴である。
知識量偏重の流れへの一石
そのため、私たちは「あ、その情報なら知っているよ」「その知識ならすでにインプット済み」となれば、その時点でもうその情報や知識に関心をなくす。そしてまた次の新しい情報・知識集めに目を向ける。概念思考は、こうした知識量偏重の流れに一つの提言を行うものである。すなわち一つの物事について、それを断片的な知識として頭に「さくっと(軽く)覚える」のではなく、ゆたかな概念として胸に「どっしりと(分厚く)掴む」ことを目指す。
「成長」という言葉の概念的理解
例えば「成長」という言葉がある。この言葉の意味は中学生以上であれば誰でも知っているだろう。ちなみに『広辞苑 第七版』では、成長とは「育って大きくなること。育って成熟すること」とある。しかし辞書的な意味を知識として持っているからといって、その言葉をゆたかに概念として胸に落としているかどうかはわからない。
ワークショップでの試み
下に掲載したのは、筆者が実施している概念思考ワークショップで、「成長とは何か」を自分の言葉と絵図で定義してみようという設問に対する参加者からの回答の数々である。「成長」という一見わかりきった言葉、知ったつもりになっている単語を、どうゆたかに概念として保持しているのかが試される。
フランスの作家マルセル・プルーストはこう言った。「発見の旅とは、新しい景色を探すことではない。新しい目を持つことだ」。流れゆく大量の情報・知識に振り回されることなく、一つの概念を深く、分厚く起こし、それを基盤として情報や知識を取捨選択していく。そうした人間型が独自に起こす概念的な思考の基盤があればこそ、AIツールは強力な武器になる。



