名古屋市南区でこの春、17歳の町内会長が誕生した。住宅地と工場地帯が混在する同区の泉楽中町内会で、高校3年の加藤瑞稀(みずき)さんが会長に就任。大人たちが尻込みする中、自ら名乗りを上げた。役員のなり手不足は全国各地の町内会に共通する課題だが、この地区では若い町内会長の就任を機に、人の支え合いの歯車が徐々に回り始めている。
きっかけは昨年10月の会合
発端は昨年10月の町内会の会合。数年務めてきた70代の前会長が体調不良となり、2026年度の新会長を決める話し合いが行われた。出席した母親の美奈さん(45)によると、参加した約30人の住民は仕事や家族の介護に忙しいと次々に辞退。引き受け手は現れず、会議は紛糾した。
その晩、美奈さんから様子を聞いた加藤さん。頭に浮かんだのは、長年役員を務める祖母に連れられ毎年参加していた町内会の祭りだった。身近な存在である町内会の存続が危ぶまれる状況だと感じた。部活動で部長を務め、子ども食堂でボランティア活動もしてきた加藤さんは「経験を生かせるかも」と思い立ち、その場で「私がやろうか?」と母親に提案した。
家族の反対を押し切って
任期は2年。大学受験を控えていたため、当初は家族に反対された。しかし、加藤さんの決意は固く、最終的には家族が折れた。学区長からも了承を得た上で、正式に会長就任が決まった。
町内会の会議開催を知らせる書類を作成する際には、学校の配布書類を参考に、生成AI「ChatGPT」を駆使。美奈さんに添削してもらい仕上げた。加藤さんは「周囲は人生経験が豊富な大人ばかり。『敬語が間違っていないかな』と気を使って大変」と明かす。
独自色を出す取り組み
会長として独自色を出す取り組みも始めた。回覧板に挟む会議開催のお知らせに、役員以外も参加可能と明記。同世代にも町内会活動に興味を持ってもらいたいとの思いからだ。しかし、これまで2回の会議には役員以外の参加はなかった。それでも「悔しい」との思いを胸に、諦めずに呼びかけを続けるつもりだ。
小さな変化が広がる
一方、町内会には小さな変化も生まれている。加藤さんに背中を押され、町内に引っ越してきたばかりの幼い子どもを育てる女性が副会長を引き受けた。引退を申し出ていた別の役員の高齢女性も「私も頑張る」と続投してくれた。週1回の朝の資源ごみ分別の仕事は町内会長が兼務するものだが、学校がある加藤さんに代わり家族が担い、その作業に協力する住民も現れた。
「若い人がもっと地域に関わってくれるようになったら」と加藤さん。その挑戦が町内会活動の活性化に光を当てている。
地域活動の加入率低下が課題
自治会や町内会の担い手不足は全国的な課題だ。総務省の調査によると、2020年の加入率は平均71.7%で、10年前に比べ6.3ポイント減少。名古屋市でも、2010年に8割を超えていた推計加入率が2024年には66%まで落ち込んだ。会長らからは「後任を探すのが大変」「会費集めや行事が負担」との声が上がっている。
放送大学の玉野和志教授(都市社会学)は、1990~2000年代以降、町内会運営を担うことが多かった自営業者の減少や、定年退職後も働き続ける人の増加が背景にあると分析する。
一方で、若い世代が町内会の活動を支える例も出てきている。名古屋市では2025年度、大学生が地域の祭りや運動会などの運営に協力するモデル事業を実施。今秋には地域活動に興味がある人と支援を求める町内会などをつなぐマッチングサイトも開設予定だ。
玉野教授は、行政から町内会に依頼している仕事を見直すなど負担軽減が重要と指摘。「町内会は地域課題を協議する場と位置付け、祭りや防災対策といった活動はNPOなどに任せるのも一つの手。少ない担い手でも持続できる方法を考えるべきだ」と提案する。
町内会・自治会は、安全で快適に暮らせる地域社会を維持するために、町内などの一定の区域に住む人々でつくる自治組織。加入は任意で法律上の義務はない。住民相互で環境美化や防犯、防災の活動、集会施設の維持管理などを担っている。近年は加入者の減少から、防犯灯の管理など一部業務を行政に移管する例もある。



