防衛大学校の第11代校長として、2026年4月に吉田圭秀氏(63)が就任した。一般大学卒で初めて自衛隊の「制服組」トップである統合幕僚長を務めた異色の経歴を持つ同氏は、自衛官出身として初の防大校長となる。本インタビューでは、国の行方を見据え、学生たちのロールモデルを目指す吉田氏の考えに迫る。
東大から自衛隊へ:異例のキャリアの原点
吉田氏は1986年に東京大学工学部を卒業後、陸上自衛隊に幹部候補生として入隊した。物理への興味から東大進学を決めたが、受験勉強が目的化していることに疑問を感じ、就職ではやりがいを重視したという。当時、大平正芳内閣が掲げた「総合安全保障戦略」に触れ、デスクワークよりも現場での活動を志し、企業や官庁を訪問せずに陸自を選んだ。「全く知らない世界への飛び込みでした」と振り返る。
教育への強い思いと校長就任の決意
陸上幕僚長や統合幕僚長を歴任し、2025年に退官。その後、小泉進次郎防衛大臣から防大校長就任の打診を受けた。「この上ない名誉です」と感無量だった一方、責任感も強く感じたという。自衛官生活を通じて教育の重要性を痛感し、退官後は教育者を志していたからだ。
入隊翌年に北海道留萌で小隊長として赴任した際、部下の方が技量に優れ、逆に育てられた経験が原点にある。指揮官として部下を育成する立場になっても、現場の隊員から学び続ける姿勢は変わらなかった。国内外の任務に励む隊員たちに接するたび、自らもそうあり続けようと力を得たという。
世界史的な分水嶺と防大の使命
吉田氏は、現代を「世界史的な分水嶺」と位置付ける。米国の作家マーク・トウェインの「歴史は繰り返さないが韻を踏む」という言葉を引用し、第一次世界大戦から第二次世界大戦に至った「戦間期」の再来を防ぐ必要があると強調する。米中ロの大国間競争が激化する東アジアで、戦争を抑止し日本の生存環境を醸成するために、陸幕長や統幕長として尽力してきた経験を踏まえ、防大ではリーダーシップの素地を鍛えたいと語る。
国家戦略の教訓
日本史を振り返れば、「戦間期」に軍部が台頭し、国家戦略が揺れ動いた末に軍国主義へと極端に振れ、敗戦を招いた。吉田氏は「国家戦略を誤らないこと」が最大の教訓だと指摘する。戦後は吉田茂首相の下で軽武装・経済優先路線を選択し、冷戦を乗り越えたが、現在の複雑な国際環境では歴史的教訓を生かした戦略的な思考が不可欠だ。
防大では、幅広い教養と歴史認識を備えた人材育成を目指す。吉田氏自身がロールモデルとなり、学生たちに「世界史的な分水嶺」に立ち向かう覚悟を伝えていく考えだ。



