再審制度の見直しを巡り、検察の抗告を「原則禁止」とする刑事訴訟法改正案が13日、自民党の合同会議で了承された。中部地方の冤罪被害者や支援者からは、改正に向けた一歩を評価する声がある一方、例外的に抗告できる規定が設けられることに不満が漏れた。
前川さん「抗告の可能性残るが救済進む」
1986年に福井市で中学3年の女子生徒が殺害された事件で服役し、昨年再審無罪が確定した前川彰司さん(60)は、例外的な抗告規定に懸念を示しつつ、改正案に一定の理解を示した。「抗告の可能性が残ることは本意ではないが、冤罪被害者の救済が進むことは間違いない」と語った。自身の再審では裁判所の強い求めで開示された証拠が無罪の決め手となったことから、証拠の全面開示も改正の柱として繰り返し訴えてきた。「社会全体で今後も再審の問題に関心を持ち続けてもらい、さらなる改正につなげてほしい」と話した。
阪原弘次さん「全面禁止でなければ救われない」
「検察の抗告は全面禁止でないといけない。これでは冤罪被害者は救われない」。滋賀県日野町で84年、酒店店主の女性が殺害された「日野町事件」で死後再審が決まった故・阪原弘さんの長男弘次さん(65)は落胆を隠さなかった。同事件の再審請求を巡っては、大津地裁が2018年に再審開始を認めたが、検察の2度にわたる抗告で最高裁で確定するまでに7年以上かかった。弘次さんは「検察が抗告するか判断するのならいままでと変わらない」と憤った。
小川弁護士「証拠目的外使用の罰則は疑問」
66年の静岡県清水市一家4人強盗殺人事件で、再審無罪となった袴田巌さん(90)の主任弁護人を務めた小川秀世弁護士は、証拠の目的外使用に罰則を設ける規定に疑問を呈する。関係者の名誉やプライバシーを守るためとする規定だが、「新しく制限を設けなくても、既に刑法の名誉毀損罪や個人情報保護法がある。一律に制限されるのはおかしい」と言及。袴田さんの再審は「支援者と一緒に証拠を読み込んだり、実験をしたりしてようやくできた」と強調した。
鈴木弁護士「全面禁止求め、禍根残る」
名古屋高裁で第11次再審請求中の名張毒ぶどう酒事件では、第7次請求で再審開始決定が出たが検察側が抗告し、後に取り消された。弁護団長の鈴木泉弁護士は「われわれは検察抗告の全面禁止を強く求めている。このまま国会で法案が通れば今後に禍根を残す」と批判した。
元裁判官ら「証拠開示は不十分」
再審制度を見直す刑事訴訟法改正を巡り、再審開始決定への検察官の不服申し立て(抗告)が法務省の改正案の本体部分に当たる本則に明記されることとなった。再審制度を見直す刑事訴訟法改正案を議論した13日の自民党部会の前に、元裁判官や弁護士らが東京都内で記者会見し、部会では証拠開示のルール化の議論が不十分として「国会が団結し、よい法律に変える必要がある」と強調した。
法制審議会(法相の諮問機関)部会の委員を務めた村山浩昭弁護士は、静岡地裁裁判長だった2014年、静岡県一家4人殺害事件で再審無罪が確定した袴田巌さんの再審開始を決定。会見で「再審請求事件は証拠開示が一番大きな問題。現状の開示のレベルを下回ってはならない」と述べた。
元名古屋地裁所長の伊藤納弁護士は、名張毒ぶどう酒事件の第7次再審請求審で名古屋高裁判事として開始決定を出した経験を「記録を読む中で疑問が湧き、証拠を出してほしいと思ったことが何度もある。証拠開示のルールがなく、裁判官として武器がない状況だった」と振り返った。
今回の法務省改正案には、裁判官が裁量で証拠開示を命じられるような規定は盛り込まれなかった。伊藤さんは「そうした規定があれば、裁判官はより自信を持って判断できるのではないか」と話した。
村山さんと同じく法制審部会委員の鴨志田祐美弁護士(日弁連再審法改正推進室長)は、法務省案が検察抗告を「原則禁止」とする点について「抜け道が残る。原則と例外が逆転しかねない」と指摘した。「自民部会では証拠開示も手付かずのままだ。政党関係なく、国会議員が団結してさらに良い法案を作ってほしい」と訴えた。(三宅千智)



