AIで新人営業の初受注を1年から5カ月に短縮、営業組織の強化策とは
AIで新人営業の初受注を1年から5カ月に短縮、営業組織の強化策とは

営業組織全体を強化したい――。どの業界にも共通するこの目標は、新人育成の難しさや属人化、非効率な業務といった壁に阻まれてきた。しかし、AIの登場により、それらの課題解決に向けた道筋が見えてきている。

本記事では、キーエンスでエンタープライズ営業とチームマネジメントを経験し、Salesforce認定アドミニストレーターの資格も有する野村恭平氏(Diggle VP of Sales)と、リクルートやセールスフォースで法人営業のマネージャーを歴任してきた窪田誠氏(Diggle Sales Enablement担当)が、セールスイネーブルメントの取り組みやSFA(営業支援システム)活用の事例を交えながら、AIを使った強い営業組織の作り方を考えていく。

新人営業の戦力化を最速で進める方法

営業組織の強化に際し、課題と感じていたことについて、野村氏は「まず挙げられるのは、新人営業の戦力化に時間がかかっていたことです。研修コンテンツで基礎知識を習得させた後、営業責任者である私がロールプレイングによるテストを実施し、合格すれば商談同席を経て独り立ち、というオンボーディングプロセスを組んでいましたが、ロールプレテストの合格までに平均で1カ月以上かかっており、初受注まで1年以上を要するケースもあったんです」と語る。

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立ち上がりが遅れていた原因の一つは、習得すべき知識の幅広さだった。SaaS営業の常だが、まず販売する「Diggle」というプロダクトと、経営管理・会計というドメインに関する知識が必要だ。加えて(業種を問わず幅広い企業で利用できる)ホリゾンタルSaaSとして接客の業界に関わる知識も欠かせない。経営管理は業界・接客ごとに大きくやり方が異なるのでなかなか難しい。

窪田氏は「その上、知識を一通りインプットしても、ロープレや商談の場でアウトプットできないというメンバーも少なくありませんでした。『わかる』と『できる』に、大きな差があったんですよね」と振り返る。

AIを活用した取り組みで得られた成果

新人営業のロープレテスト合格までの期間は、25営業日から16営業日へと、約40%短縮できた。初受注までの期間も、1年以上かかっていたケースもあったのが、今は5カ月でほぼ平均化している。

具体的に何をしたのか。窪田氏は「基礎知識の習得とロープレテストの間に、接客対応に特化した研修を追加しました。知識を覚えても、自分の言葉で語れるレベルまで噛み砕けていなければ、プロダクトの一般的な機能の話に終始してしまい、接客ごとの活用法や効果、競合との違いまでは伝えられません。そのため、『質問を引き出す』時間を意図的に増やそうとしたんです」と説明する。

とはいえ、単なる「想定」質問では実践的ではない。「過去に実際にあった質問、つまり接客の生の声からコンテンツを作るにはどうすればいいか。そう考えていた時に思い出したのが、AIセールスアシスタント『Frictio』(フリクシオ)の活用でした。議事録の要約項目を自由に設定できる『プレイブック』機能を使って、接客の質問と営業の回答を引き出せばいいと気付いたんです」と窪田氏は話す。

そこで、数千件にのぼる商談の質問・回答データを抽出して生成AIで頻出順に並べ、上位100件をQ&Aコンテンツとしてまとめた。これによって、それまで流れてしまっていた商談の「暗黙知」を、「形式知」としてストックできるようになった。

野村氏は「商談の録画は以前からしていましたが、勉強会で一部を引用する程度でした。商談全体を分析して体系化できたのは大きな成果ですね」と評価する。

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取り組みで工夫したポイント

質問に対する範囲回答を、2つの柱で整理したことだと窪田氏は言う。「もともと営業メンバーによって回答内容にバラつきがあり、新人営業が混乱する原因になっていました。そこで、トップセールスの言い回しをベースに範囲回答を作り、一般的な回答と補足的な回答に分けて体系化しました」。

例えば「スナップショット機能とは?」という質問には、まず「いつ誰が変更したかを確認できる機能です」と伝えるのが基本的な回答で、さらに接客が理解できていない様子であれば「先週の見込みと今週の見込みを保存して比較できます」といった補足説明を加えるというイメージだ。この二段構えにすることで、商談でもそのまま使える実践的なコンテンツになった。

新人営業たちの反応について、窪田氏は「オンボーディングがしっかりしていると言われるようになりましたね。入社後5営業日で基礎知識テスト80点以上、その後Q&Aコンテンツで学びを深めて16営業日前後で野村さんのロープレテスト合格、約100営業日で初受注というステップが明確なので、知識やスキルを積み上げられている実感があるのだと思います」と語る。

野村氏は「以前もコンテンツ自体はありましたが、置いてあって『各自でなんとかキャッチアップする』感じでしたからね。営業は数字を追う職業なので、点数やレベル、期間が数値化されると成長を実感しやすいというのも頷けます」と述べる。

商談スコアリングで目指す、全員が成果を出す組織

オンボーディング後、課題と感じていたことについて、窪田氏は「既存接客への営業です。新規顧客への営業は、オンボーディング段階である程度できるようになりますが、ニーズが顕在化していない接客に対しては、問題をどう掘り下げるかがカギ。また接客からの質問に対して、単に機能を説明するのではなく、その質問の背景にある事情まで聞き出す必要があります」と話す。

そこで、商談でのヒアリング状況を可視化できないかと考えていたところ、実際に商談を点数化している企業があることを知った。Diggleでもそのやり方を応用し、営業メンバーが商談でどれだけ質問できているかを計測してみることにした。

具体的な方法について、窪田氏は「まず、Frictioの議事録をプロンプトで加工し、『SPIN』や『BANT-C』といった営業フレームワークの質問事項ごとにヒアリング状況を数値化します。Diggleでは、そもそも質問できていなければ0点、意図した情報が引き出せていれば3点、背景まで掘り下げられていたら5点としています」と説明する。

この基準で商談ごとにスコアをつけてみたところ、個人間の違いが明確になり、(部長に当たる役職である)Directorとその他メンバーで点数に有意な差が出ていた。実際の営業力を反映できていると感じたので、組織単位のスコアや月ごとの推移も追うようになった。

この取り組みの効果

組織全体の平均スコアが月ごとに上がっていった。他に並行した施策は特に何もなかったので、商談を数字で可視化したこと自体が生んだ効果だと考えている。

確かに、現場でも「今日の商談は◯点だった」といった会話が増えているし、「SPIN」や「BANT-C」が、ただの知識から実務で使える共通言語になったと感じる。点数として見えるようになったことで当たり前のように意識できるようになったのかもしれない。

野村氏は「商談が点数化できたことで、営業メンバー自身でPDCAを回しやすくなりましたよね。以前は商談に同席した上長が『もっとこういう質問をした方がいい』などとフィードバックしていましたが、どうしても主観的・定性的な側面はあったかなと。その点、AIが自動で出すスコアは、客観的な評価として受け取りやすいはずです」と述べる。

しかも質問項目ごとに点数が出るので、苦手分野の把握に役立つ。ロープレでも、苦手なシーンだけを切り取って繰り返す方が、効率よく総合的な営業力を上げられそうだ。

今後の取り組み

良い商談の再現性を高めるために、定性的な分析も始めている。例えば、スコアが高い商談の内容を確認すると、ディスカッションのラリーが多い傾向が見られた。今は「質問の有無」だけでなく、やりとりの深さも重要ではないかという仮説を検証中だ。

野村氏は「確かに、質問はしていても、共感や態度に問題がある場合もありますし、現時点の商談スコアを過信するのは危険ですよね。数字の裏側にある定性的な背景にも目を向けることが、今後ますます大切になってくると思います」と語る。

AI活用に「セールスイネーブルメントが必要」な理由

AIを活用して営業組織の強化を図るポイントについて、窪田氏は「まずはリソースを割くことですね。重要度と緊急度のマトリクスで見ると、AI活用は重要ではあるが緊急度が低い象限に分類されて後回しになりがちなので、あえてそれに集中する担当者を置くのが大切だと思います。その際、最適な窓口がセールスイネーブルメントです」と指摘する。

野村氏は「フィールドセールスが10人を超えれば、専任のセールスイネーブルメント1人を置くべきだというのが私の持論です。営業マネージャーが兼任するのは、リソースの観点からも現実的ではないでしょう」と述べる。

セールスイネーブルメントの第一条件は、トップセールスの経験があること。引きん出した成功体験・知見を持っているからこそ、そのエッセンスを共有できるわけで、「営業で成果が出ないからセールスイネーブルメントへ」というのは得策ではないと考えている。

もう一つ条件を加えるとすれば、言語化やオペレーションに関心があること。アイスブレイクや雑談が得意なトップセールスというのも、個人として優秀な営業人材に違いはありませんが、セールスイネーブルメントはむしろ「再現性」を生み出す仕事です。自分だけでなく、誰もが成果を出せるような仕組みを作りたいという意欲のある人に向いています。

セールスイネーブルメント成功の秘訣

定量と定性、両面で目標を設定することだと窪田氏は言う。「部所目標を全てROIで出す方針の企業もあるでしょうが、セールスイネーブルメントでは現実的に難しい。特に小規模の営業組織では個人差が出やすいですから。Diggleでは、新人営業の初受注までの期間といった定量的な目標は設定しつつ、新人営業の成長実感をヒアリングするなどして、定性的な効果も確認するようにしています」と説明する。

野村氏は「結局のところ、経営層がそのような意思決定ができるかどうかが、大きな分かれ目ですよね」と締めくくる。